日本はIFRSでアジアの主導権を握れるか!? 戦略なき対米追随姿勢では、したたかな中国に出し抜かれるのがオチ
松下金融相は戦略性をもってIFRSに取り組むことができるか

「今こそ日本が国際会計基準IFRSを受け入れ、世界が注目するアジアでの主導権を握る事が大事だ。日本が受け入れ姿勢を表明すれば、孤立する米国も受け入れに動き、中国もついてくる。まず日本が受け入れることだ」

 7月4日、日本公認会計士協会総会の懇親会で、挨拶に立ったデービッド・トゥイーディー前国際会計基準審議会(IASB)議長はこう力を込めて語った。同氏は英国人の会計士で、長年、会計基準の国際化に携わり、昨年IASB議長を退任した。この日は、会計士協会が毎年選んでいる『公認会計士の日』大賞の特別賞を受賞。その式典などのために来日した。

 日本はIASBの前身組織の時代からの理事国で、会計の国際化に取り組む姿勢を見せてきた。IASBが本部のロンドン以外に初めて開くサテライト・オフィスの誘致にも成功、年内には大手町に開設されることが決まっている。トゥイーディー氏にしてみれば、日本は会計国際化の強力なパートナーだったのだ。ところが昨年来、日本の金融庁の姿勢が大きく変化。同氏がお祝いの席上、一歩踏み込んだ表現で日本に注文を付けたのも、そんなことが背景にあった。

 もっとも、金融庁の現場の官僚たちが姿勢を一変させたわけではない。民主党内閣の基本方針の1つは「日本を世界に開く」であり、グローバル化を進める方針に変わりはない。IFRSについても積極的に受け入れることで、基準自体の作成に日本の主張を反映させていこう、という戦略だった。

 ところが、昨年6月に自見庄三郎・金融担当相(当時)が、突然、IFRSの国内企業への適用義務付けを先送りする姿勢を表明。日本のIFRSへの対応を決める企業会計審議会に反IFRS派を10人も臨時委員として加えた。さらにその中から3人を金融庁参与にまで任命している。これまでIFRSを推進してきた金融庁の姿勢を強引に一変させようというやり方だった。

日本は日本独自の国益を考えるべき

 2009年に企業会計審議会がまとめた「中間報告」では今年2012年に、日本でのIFRSの扱いが決断されることになっている。金融庁の官僚によると、反IFRS派はこの中間報告を無効とするために、新しい中間報告の取りまとめを目指していた。

 ところが、IFRS推進の立場である従来の委員の反発も根強く、意見をまとめることができなかった。結局、6月末には中間報告とは似て非なる「中間的論点整理」が発表されたに留まっている。審議会ではしばしば「論点整理」というペーパーが作られるが、今回の場合、論点整理にも至っていない「中間段階」ということだ。

 自見氏と自見氏を支える反IFRS派の巻き返しは、この中間的論点整理で一応の区切りをみた、というのが金融庁内の仕切りだ。内閣改造で退任した自見氏の後任には松下忠洋・衆院議員が就任。今後、大臣としてどうIFRS問題を取りまとめていくかに焦点が移っている。

 松下氏は中間的論点整理について記者会見で、「これから検証をして勉強をしていきたい」と述べるに留めている。その上で「米国の状況や欧州の今後の進め方など、国際的な動きもしっかりとフォローしながら日本の対応を見ていく」とした。

 松下氏は、自見氏のように金融庁の現場を恫喝するような手法で反IFRSを推し進めることはなさそうだ。冒頭のトゥイーディー氏の発言は、そんな大臣にIFRS推進の明確な姿勢を打ち出すよう注文を付けた面もある。米国に追随するのではなく、日本は日本独自の国益を考えるべきだ、というわけである。

 反IFRS派は、IFRSの基準としての問題点を指摘し、日本基準が優れていると主張している。だが、その実、反対派の企業の多くは日本基準ではなく、米国基準を採用している。反対派の学者も「米国がIFRSを採用するかどうかはっきりしない中で、日本が方針を決める必要は無い」と言う。

 一見、日本の国益を主張しているようでいて、実は「対米追随」なのだ。大国である米国に付いて行けば十分で、日本が独自の戦略性をもって基準づくりに参画していくことはない、というのだろうか。

 日本基準のままで世界に通用するという荒唐無稽な主張を繰り返していては、到底アジアの主導権は握れない。隣国の中国はしたたかなまでに戦略性に富んでいる。

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