二宮清純レポート 野村祐輔23歳・広島東洋カープ 思考を止めないから相手の動きが見えてくる

 マウンド上で纏う空気は、他の若い投手とは明らかに違う。老獪ともいうべき投球術と独特の「間」は、百戦錬磨のベテラン打者をも黙らせる。多くの試練を超えてきた23歳。そのポーカーフェイスに隠された、新人らしからぬ新人の思考を覗く。

ゲームを支配する男

 いきなりだが、クオリティ・スタート(QS)という野球用語をご存じだろうか?

 米国のスポーツライター、ジョン・ロウが提唱したものでスターター(先発投手)の能力を示す指標のひとつである。具体的に言えば6回以上を3自責点以内に抑えれば先発の任務を果たしたとみなされ、QSが記録される。その回数を全先発数で割ったものがQS率だ。

 昨季、この国における最高のQS率投手は北海道日本ハムのダルビッシュ有(現レンジャーズ)で、96・4%をマークした。28試合に先発してノルマを達成できなかったのはわずか1試合だけだった。

 これから紹介する広島の新人・野村祐輔のQS率は91・7%。恐るべき安定感である。6月27日現在、12試合に先発して4勝3敗ながら、スターターとしての役割は、ほぼ完璧に果たしていることが記録上からはうかがえる。監督の野村謙二郎からの信頼も絶大で、「たとえば試合中に牽制のクセを指摘するとすぐに修正する。並のルーキーではない」と言わしめている。

 身長177cmと投手としては小柄。目を見張るほど速いストレートがあるわけでもない。ポーカーフェイスの23歳のどこにゲームを支配するだけの力があるのだろうか。

 低反発の統一球が導入されて2年目の今季、本塁打はさらに減少している。1試合あたりの本塁打数は0・94本。昨季よりも0・15本下回っている。ビッグイニングが望めないとあれば、どのチームも前半から1点をコツコツ取りにくる。これから紹介するゲームは、その典型だった。

 5月19日、マツダスタジアム。セ・パ交流戦。広島は本拠地に日本ハムを迎えた。

 この日のゲームの最大の見どころは・佑・祐対決・。東京六大学でしのぎを削った日本ハム先発の斎藤佑樹に野村が挑むとあって球場には3万1803人の大観衆が詰めかけた。

 ちなみに六大学時代の両雄の対決は斎藤(早大)の3勝1敗。1学年下の野村(明大)には「悔しい思い」しか残っていない。

 0対0の2回表、早速、見せ場が訪れた。日本ハムは1死三塁と先制のチャンスをつかんだ。