特集 水害に備えよ
急増する集中豪雨 急がれる減災対策
自助・共助・公助の連携が要

大雨で広い範囲にわたり水につかった住宅街=和歌山市内で6月22日

 今年もまた水害の季節を迎える。地球温暖化の影響で増えているといわれる異常気象が、これまでにないほどの頻度と規模の豪雨災害をもたらしている。昨年は3月の東日本大震災に続き夏から秋にかけて大型の台風による大水害が全国各地で発生した。今年は6月に8年ぶりに台風が上陸し、すでに豪雨災害が発生している。台風の通り道であったり、出水しやすい地形を抱える自治体は、過去に何度も水害を体験してきた。治山治水はいつの時代も政治の要諦だ。最も頻繁に襲ってくる自然災害である水害をいかに減らすか。国と自治体、住民が一体となり、自助・共助・公助が連携したハード、ソフト両面の対策が求められる。

 東日本大震災に見舞われた2011年は大水害が発生した年でもあった。梅雨明け直後の7月の新潟・福島豪雨、8月末から台風12号が日本列島を縦断するように猛威を振るい、9月に入っても台風15号が豪雨災害をもたらした。その被害の実態を振り返る。

新潟・福島豪雨で決壊した五十嵐川=新潟県三条市で11年7月30日

 まず新潟・福島豪雨は7月27日から30日にかけて、新潟県と福島県の会津地区を中心に記録的な大雨を降らせた。27日21時から30日13時までの64時間の降水量は、新潟県三条市大江の笠堀観測所で1006ミリを記録し、7月の平年の月降水量の2倍以上が降った。この大雨で新潟、福島両県で死者4人、行方不明者2人が出た。さらに、両県内の各地で堤防の決壊や河川の氾濫による住家や農地の浸水が発生したほか、土砂災害による住家や道路の被害も多数発生した。このほか停電、断水が発生し、交通機関にも大きな影響が出た。

 8月25日に発生した台風12号は大型なうえに台風の動きが遅かったため、30日から9月6日に西日本から北日本にかけて、山沿いを中心に広い範囲で記録的な大雨をもたらした。紀伊半島の一部では2000ミリを超える降雨を記録した。土砂災害や浸水、河川の氾濫などで、和歌山県や奈良県、三重県などで死者81人、行方不明者16人を出し、北海道から四国にかけての広い範囲で床上・床下浸水などの住家被害が出したうえ、田畑の冠水などの農林水産業への被害も大きく、公共交通機関では鉄道の運休など交通に障害が発生した。

橋脚の一部が倒壊、流失したJR紀勢線の那智川橋りょう=和歌山県那智勝浦町で11年9月4日

 また9月13日に発生した台風15号の被害も甚大だった。南大東島の西海上にしばらくとどまり、湿った空気が長時間にわたって本州に流れ込んだことなどから同15日から22日にかけて西日本から北日本の広い範囲で、暴風や記録的な大雨となった。静岡県や愛知県などで死者18人、行方不明者1人が出た。被災は沖縄地方から北海道地方と全国に及び、住家損壊や土砂災害、浸水被害などが発生した。また、農業・林業・水産業被害や停電被害、鉄道の運休、航空機とフェリーの欠航などによる交通機関がほぼマヒ状態になった。

 梅雨期がなく比較的水害被害の少ない北海道でも大きな被害が出たことが特徴の一つだった。9月2日から6日にかけて、北海道付近に停滞した前線と台風12号、13号によって大雨が降った。十勝地方の上士幌町ぬかびら源泉郷では、降り始めからの総降水量が434・5ミリを記録するなど、道内各地で過去の降水量の記録を更新する大雨となった。この台風により国道で、最大12路線18区間で通行止めが発生したほか、道内では住家一部破損1戸、床下浸水32戸の被害が出た。

 頻発する集中豪雨は、観測データが如実に示している。雨量の観測地点数は年々、増加していることから、1000地点当たりの年間発生回数で比較すると、1時間当たりの降水量が50ミリを超える集中豪雨は、9年に169回だったのが、10年に209回となり昨年は275回に急増している。1時間降水量が100ミリを超える豪雨も9年と10年が2回だったのに対して、11年は5回あった。1級河川などの国管理の河川をみると、昨年は206水系287河川で氾濫注意水位を超えた。ダムを活用した洪水調節も昨年は延べ838ダムとなり、09年の延べ492ダムの1・7倍に急増した。

被害減少に欠かせない
河川改修などハード面の整備

 防災と減災を実現するためには、河川改修などのハード面の充実に加えて、住民を逃がすためのソフトの充実なども求められている。災害時にどう避難勧告を出し、住民を行動させるか。水害を経験した全国の地方自治体の首長が集まって防災対策を協議している「水害サミット実行委員会」の発起人の一人である兵庫県豊岡市の中貝宗治市長は「自分で自分を助ける自助、近隣の住民同士で助け合う共助、自治体などによる公助の連携が大事だ」と指摘する。

 今年6月に東京で開かれた水害サミットでは「住民はなかなか逃げようとしないということを前提にして、首長は逃がす方策を尽くさなければならない」という意見が出た。水害サミットに参加した自治体のほとんどが、地区ごとに自主防災組織を立ち上げて防災訓練を繰り返しており、水害時の浸水危険度やどう避難するかを示したハザードマップを作って住民に配布していた。

 豪雨災害は、国が管理する規模の大きな1級河川で被害が大きくなる傾向がある。国土交通省の関克己・水管理・国土保全局長は「災害が起きた時に一番重い責任を持っている市町村長と国が一緒に取り組んでいくことが原点で、ハード面の整備は、やっただけの効果がある」と話す。

 04年7月に発生した新潟・福島豪雨の洪水後に再度の災害防止を目的に、直接被害のあった信濃川水系五十嵐川・刈谷田川で、緊急的な河川改修が実施された。昨年7月の同地区の豪雨では、笠堀観測所で04年7月洪水(累計647ミリ)の1・6倍の雨量(累計1006ミリ)を記録したにもかかわらず、浸水面積は04年の2473ヘクタールから552ヘクタールに約8割減少し、浸水被害も9778戸が約9割減の421戸となった。

 刈谷田川に遊水池を設置したほか、湾曲した河道をショートカットして浸水被害が出にくくした。また上流の刈谷田川ダムの水位を洪水期に10・1メートル下げて貯水機能を20%増加させた効果も大きかった。さらに五十嵐川と刈谷田川の河川改修によって、これまで氾濫していた水が下流に流れることに伴って、下流側の信濃川本川で流量の増加が見込まれることから、34・2キロにわたって堤防の高さを上げる河川改修を実施した。その結果、信濃川本川の水位観測所では軒並み史上最高水位を観測したにもかかわらず、堤防の越水決壊などの被害はなかった。

 福島県中通りの阿武隈川水系では、98年8月に大洪水が発生し、本宮市などで大きな被害を出した。堤防がない無堤地区が全体の30%を占めるなど河川整備が進んでいなかったため大規模な改修が実施された。その結果、昨年9月の台風15号では改修を実施した区間での浸水被害は大幅に減少。阿武隈川上流の浸水面積は98年災害の1846ヘクタールから320ヘクタール(約8割減)に、浸水戸数も1917戸が740戸(6割減)にまで減少した。98年と台風15号の2日間の雨量は216ミリ、218ミリでほとんど同じ程度の豪雨だった。降雨予測などから、洪水の途中から三春ダムへの流入を全て貯留する洪水調節を実施したことも、ダム下流全河川にわたり水位を減少させた。

 岐阜県と愛知県を流れ、伊勢湾に注ぐ1級河川の庄内川では、00年9月の東海豪雨を契機に、00年度から04年度にかけて河川激甚災害対策特別緊急事業が実施された。昨年9月の台風15号では、多治見観測所で総雨量が477ミリで東海豪雨の367ミリを上回ったが、浸水被害戸数は6万2573戸が961戸に激減した。河床の掘削や堤防をかさ上げする改修が奏功した。

 鹿児島県の川内川では、06年7月の豪雨災害で大規模な浸水被害を受けた。昨年7月の豪雨では、川内川水系鶴田ダム上流で総雨量が264ミリとなったものの、河川激甚災害対策特別緊急事業で堤防の建設や河床の掘削が行われていたことから、支川の羽月川流域では06年に180ヘクタールあった浸水被害は0・1ヘクタールに激減した。鶴田ダムの操作で、ヤフードームの22杯分に相当する最大約3870万立方㍍を貯留して、最大流入時には下流へ流す水量を約4割に減らした効果も大きかった。

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