官民競争で行政コスト削減に効果
現場の労災認定、賃金低下など労務問題も浮上[市場化テスト]

 行政などの公共サービスを官民で競争入札させて質の向上と予算の削減を図る「市場化テスト」は、06年の法律施行以来、対象事業を拡大し、毎年数百億円規模の削減効果を上げている。一方、この市場化テストの対象事業となった中央省庁の警備業務で、昨年春に民間警備員が死亡し、労災認定された。予算削減は膨大な財政赤字を抱える国の大命題だが、これらの労働現場では、落札価格の下落によって、1時間当たりの労働賃金が最低労働賃金に並ぶケースもあるという。市場化テストの光と影が交錯する。

 市場化テストは公共サービス改革法によって、公共サービスについて、「官」と「民」が対等な立場で競争入札に参加し、質と価格の両面で最も優れた者が、そのサービスの提供を担う仕組みだ。小泉純一郎政権の構造改革路線で強く打ち出された「民でできるものは民へ」という考え方に基づいている。不効率でコストが高いなどととかく評判の悪かった行政による公共サービスの世界に、民間並みの競争原理を導入した点で画期的な改革と評価されている。

 毎年夏ごろまでに、省庁ごとにどれを市場化テストの対象にするかが閣議決定され、入札が行われている。昨年7月時点の対象事業では、211億円の削減効果があった。

 そのうち主な事業をみると、日本年金機構の国民年金保険料収納事業で、全国312カ所の年金事務所すべての窓口業務を対象に実施され、127億円の削減効果があった。法務省の登記所の登記事項証明書などの交付業務では、全国の登記所のうち302カ所で入札を実施し62億円が削減された。今年度以降も97事業約316億円の削減効果を目指している。

 市場化テストの導入が進む中で、対象事業で今年2月に労災認定されたことが波紋を広げている。

 労災と認められたのは中央省庁の警備業務に派遣されていた民間会社の警備員の男性。昨年3月、勤務先から帰宅する途中に胸部大動脈瘤破裂を発症し死亡した。週6日間勤務しており、死亡直前の2カ月間の時間外労働は月平均で81時間超あったとして、渋谷労働基準監督署が長時間労働による死亡と労災認定した。

 業務上災害の労災認定には「脳・心臓疾患の労災認定」と「精神障害の労災認定」があり、発症の原因が「業務による明らかな過重負荷」の場合に認定される。認定要件として「異常な出来事」に遭遇した場合や「短期間の過重業務」、「長期間の過重業務」があり、長時間の過重労働では、発症前2カ月間ないしは6カ月間にわたって、1カ月当たりの時間外労働が80時間を超える場合は、業務と発症の関連性が強いと判断される。

 これに対して会社側は「警備員本人が会社に提出した業務報告書以上の労働時間が認められた。1か月当たりの時間外労働がわずかに1時間上回ったとして認定されたのは違和感を持つ」と話している。

  霞が関の中央省庁のビル関連業務は、各省の会計課長が発注者になっており、警備業務は清掃や空調管理などのビルメンテナンスの業務とパッケージで発注するケースが多いという。労災認定のあった省庁では警備会社、清掃会社、ビルメンテナンス会社の連名で応札していた。

警備業務は最低賃金並み

 国の労働統計では、警備業務は1時間当たり1500円の賃金となっていて、これが官公庁の警備業務の入札際の目安になっているという。しかし、実際には入札の結果、1時間当たりの単価は交通費など経費込みで1050円程度に引き下げられているという。東京都の最低賃金は1時間837円(昨年10月以降)で交通費を差し引くと並ぶ水準だ。官公庁は単年契約が多く、一般競争入札が一般的になって毎年入札になり、落札価格は年々下がっているとされる。

 警備業界関係者によると、警備員は1年契約が一般的で、無期雇用をしているのは大手警備会社だけという。このため給与も「日給を月1回にまとめて支払う日給・月給の形態になっている」という。

 これらの人的警備は、警備する現場がなくなれば警備員の必要がなくなる。警備員を無期雇用していると、労務費がかさみ企業の負担が大きくなるため、中小事業者が多い警備業界では契約雇用にせざるをえないという。

 また、顧客によっては時間を区切った警備の発注や短期間の発注もあり、こうした雇用形態になっているとされる。顧客の特性から雇用関係が安定しないわけだ。こうした業界のため、給料も月額20万円程度に低迷している。

 さらに、省庁などの入札の資格は細かく決まっていて、会社規模などによってランク付けされている。仕様書で、警備員個人に警備業法で定められた交通誘導や雑踏警備など業務資格を求めるケースも多く、年々、ハードルが高くなっているという。資格者を雇う会社側にとって、労務費の増加要因になっており、関係者は「利益の出ない入札も多く、経営を圧迫されている中小事業者も多い」と証言する。

 各省庁は入札で、質と価格を評価して決める「総合評価方式」を取っており、必ずしも最低価格応札者が落札するわけではない。また予定価格の6割を切った場合は「低入札価格調査」が行われ、会社の経営状況などがチェックされる。入札では各省庁で仕様書が作られるが、入札の条件を厳しくすると参入業者が減少し、緩すぎると参加会社が増えて、価格競争が激しくなる傾向にある。

 省庁のスリム化が進行する中でも、末端の労働環境をどう守るか。警備関係者は「雇う側も弱者だ。認定後に民事訴訟が提起されれば結局、弱い者間で争うことになる。弱者に負担がいかない入札制度の何らかの見直しが必要ではないか」と指摘している。

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