家庭向け電気料金値上げ8月以降に
人件費など「高コスト構造」に批判高まる[東京電力]

東京電力値上げ申請に関する公聴会で、陳述人に対して意見を述べる西沢俊夫社長(中央)=経済産業省で6月7日

 東京電力が7月1日から予定していた家庭向け電気料金値上げは、8月以降に先送りされることになった。人件費を中心に「高コスト構造」への批判が高まり、経済産業省の有識者会議による審査が長期化しているためだ。値上げが1カ月遅れるごとに収益は約200億円目減りし、経営への影響は大きい。しかし、値上げ幅圧縮を求める声は根強く、経産相による認可のめどは、立たないままだ。

 東電によると、12年度~14年度の平均原価が、燃料費の増加などにより大幅に増加するため、値上げをしない限り、合理化努力を尽くしても、年平均約6700億円の赤字になるという。原発の停止に伴い、燃料費の高い石油や天然ガスによる火力発電を増やしたことが、値上げの大きな要因という説明だ。

 東電は4月から、契約電力が50キロワット以上の工場や事務所など個別交渉で自由に料金を決められる企業向けについては、平均16・39%の値上げを実施している。

 家庭向け料金は、人件費や燃料費などの諸費用(原価)に一定の利益を上乗せする「総括原価方式」で決めるが、値上げには経産相の認可が必要になる。

 東電は5月11日に、平均10・28%の値上げを申請し、有識者会議「電気料金審査専門委員会」(委員長・安念潤司中央大法科大学院教授)で、審査が進んでいる。

 値上げ申請を受け、経産省主催の公聴会が6月7日、東京・霞が関の同省内で開かれた。一般の消費者や各種団体代表ら20人が意見を述べ、約200人の傍聴者が見守った。抜本的な経営改革を求めて、値上げに反対する意見が大半を占め、東電に対する不信感の強さを改めて印象づけた。

 とりわけ、批判が集中したのは人件費だ。

 「公的資金を投入する企業なのに給与が高すぎる」

 「民間平均の400万円程度にすべきだ」

 東電は昨年3月の福島第1原発事故以降、従業員の年収を20%(管理職は25%)削減している。しかし、今回の値上げの原価には、今冬から復活させる賞与(ボーナス)の原資として3年間で計734億円を盛り込んだ。

 13年度以降は年俸制に移行する計画で、そこにはボーナスに相当する分も含むため、今年度525万円の平均年収は、14年度には573万円に上昇する。これは、民間企業平均の約400万円はもちろん、従業員1000人以上の企業の平均である543万円をも上回る。

 この計画を織り込んだ総合特別事業計画によると、12年度~14年度の平均人件費は3488億円で、08年度の前回料金改定時に比べ911億円削減する。

 従業員(東電単体)は、13年度末までに現員の約1割に当たる約3600人を減らす計画だ。終身企業年金も保証利回りを現行の年3・5~6・5%から、現役は1・5%に、OBも2・25%に引き下げて支給額を減額する。健康保険の会社負担率引き下げや福利厚生メニューの縮小などを実施する計画だ。これらをもって東電は、「ぎりぎりの削減」を強調するが、「努力不足」との批判は収まっていない。

 東電が値上げの最大の理由にしている燃料費にも、疑問が投げかけられている。原価に織り込んだ燃料の価格が、今年1~3月の財務省の貿易統計に比べ、原油は5・9%、液化天然ガス(LNG)も1・7%割高になっているからだ。

 東電は「環境規制への対応や発電効率向上のために、高品質の燃料を調達するから」と説明している。しかし、公聴会では「(燃料価格の変動を自動的に電気料金に反映させる)燃料費調整制度に安住し、他社と燃料調達の競争をしてこなかったからだ」という厳しい意見が噴出した。専門委の委員の間にも、「コスト削減の努力が足りなかったのではないか」との指摘がある。

 東電は、割安な北米産の新型天然ガス「シェールガス」を購入したい考えだが、輸入には米政府の許可が必要で、実現の見通しは立っていない。燃料費の大幅な圧縮は難しそうだ。

 原価には、福島第1原発の汚染水処理など廃炉関係費用や賠償業務費用も盛り込まれている。これについても専門委内で、「事故処理費用がなぜ消費者の負担になるのか」との批判が出ている。

 東電の利益が、競争相手のいない家庭向け電力に大きく依存している構図も、値上げに理解を得られない原因のひとつだ。

利益の9割を家庭向けが占める

 06~10年度の平均で、家庭向け電力は販売量では、全体の38%にとどまるが、利益では全体の91%を占めている。小売りが自由化されている企業向けでは、競争力を維持するために料金を引き下げ、その分を競争のない家庭向けの利益で補っているともみえる。

 公聴会で、東電の西沢俊夫社長(当時)は「企業向けは発電コストに占める燃料費の比率が高い」と述べ、燃料費の増大が企業向け分の利益を減らしていると説明した。しかし、「規制に守られた家庭向けで利益の大半をまかなっている以上、値上げは認められない」との批判は続いた。

 そもそも、今回の値上げの原因である燃料費の負担増は、原発を再稼働できないことで生じた。そして、その事態を招いたのは東電が起こした原発事故だ。

 それだけに、値上げを求めるならば、真摯な姿勢で丁寧に説明する必要があるが、東電の官僚的な体質は、なかなか改まらない。

 公聴会では、東電が5月下旬に配布したパンフレットに、値上げが決まったかのような文言があったこともやり玉に挙がり、西沢氏は「誤解を与えたなら申し訳ない」と陳謝した。企業向けの料金値上げに際しても、同様の不手際があった。その反省は今回も生かされなかった。

 東電の説明、そして東電そのものに対する消費者の不信感は拭えないままだ。

 東電の家庭向け料金値上げをめぐっては、消費者庁も「消費者の視点」で点検する有識者チームを発足させた。申請内容に加え、認可までの経産省内での手続きについても検証するという。

 東電は、値上げ先送りは経営への深刻なダメージになるとして、早期の認可を求めているが、ハードルは、なお高そうだ。

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