アダム・スミスの「生きるヒント」 第3回
「社会の秩序を保つもの」

第2回はこちらをご覧ください。

 前回、アダム・スミスは、経済を考える前に、人間社会の「秩序」を保っているものを考えていた、とお伝えしました。「経済の前に、社会の秩序を重視していた」わけです。

 では、その「社会の秩序を保つもの」とは一体何なのでしょうか?

 人間が「正しい行動」をして、「悪い行い」をしないのは、人間の中にある様々な感情が作用しあった結果とスミスは考えました。そしてそれは「同感」というキーワードに凝縮されています。

 結論からいうと、この「同感」こそが人間社会の秩序を保っている、とスミスは考えていたのです。

「同感」とは、他人の行動や感情に賛同する気持ち

 スミスの道徳観、さらには経済理論を理解するうえで、この「同感(同類感情)」の概念を外すことはできません。スミスの全てはこの「同感」を前提にしていると言っても過言ではないのです。

 この「同感」は、意味としては「共感」と似ています。しかし、もう少し奥が深い考え方なので、ここから少し丁寧に「同感」の概念をひも解いていきます。

 まず、『道徳感情論』の冒頭をご一読ください。

《原 文》
「人間というものは、これをどんなに利己的なものと考えてみても、なおその性質の中には、他人の運命に気を配って、他人の幸福を見ることが気持ちがいい、ということ以外になんら得るところがないばあいでも、それらの人達の幸福が自分自身にとってなくてならないもののように感じさせる何らかの原理が存在することはあきらかである」(『道徳情操論』米林富男訳、未来社、1969年、41頁)

《意 訳》
仮に、自分にとって直接的なメリットがなかったとしても、人は他人の幸福が自分にとって重要なものだと感じる。自然にそう感じてしまう生き物なのである。

 つまり、「人間は、自分の利害に関係ない他人の出来事にも、嬉しい・悲しいという感情を抱く」ということが書かれてあります。

 試験に受かって喜んでいる人がいれば、「そうだよね、嬉しいよね」と思い、家族や恋人が亡くなった人を見れば「お察しします、さぞかし悲しいでしょう・・・」と感じる。

 また、自分の財産を理不尽に強奪された人が、それを取り戻すために戦っていると、応援したくなる。一方で、理由もなく人を傷つけたり、盗みをはたらく人に対しては、怒りの感情を覚えます。たとえ自分がその「事件」の被害者ではなくても、当事者の気持ちになって同類の感情、怒りや悲しみを覚えるのです。

 これが「同感(同類感情)」です。

 一読すると「同感=当事者と同じように感じる」という意味に捉えられます。しかし、「同感」にはそれ以上の意味が含まれています。

 人間は、周囲の出来事を見て、単に「同じように感じる」だけではありません。それに加えて、自分が当事者の立場になり、「他人がしたこと」や「抱いている感情」を自分のこととして考えてみもします。その上で、他人の行動や感情の「正当性」を評価しています。

 感じるだけではなく、評価もしているのです。この「評価」までが「同感」に含まれます。

 自分の行動が、他人から「正しい」と思われたら「同感を得た」、他人から「その行動は間違っている」と思われたら「同感を得られなかった」ということになります。

 「同感」について、再度表現を変えて説明します。

 スミスは、「人間は『他人の行動を見て、自分も同じことをするか、同じことを感じるか』を考える」としていました。これが前提です。

 たとえばAさんがBさんに暴力をふるったとします。それを見ていたわたしたちは、「Aさんの行動」に「賛成」するのか「反対」するのかを考えます。

 この時、わたしたちは「AさんがBさんを殴った理由」も知っていると想定してください。「Aさんが単純にイライラしていてBさんを殴ったのか」「Bさんが大事な約束を破ったから殴ったのか」「先にBさんに殴られたから、その仕返しをしたのか」など、AさんがBさんを殴った背景も考慮して、みなさんは「Aさんの行為」が正しいかどうかを判断するわけです。

 そして、「自分もAさんと同じような行動をする」と思えば、Aさんの味方になり、Aさんを応援します。逆に、「自分はそんなことはしない」と思えば、Aさんを批難します。

 この時、わたしたちがAさんを応援し、Aさんは正しいと思えば、「Aさんはわたしたちの同感を得た」となります。反対に、Aさんは正しくないとわたしたちが感じたならば、「Aさんは同感を得られなかった」ということになります。

 これが「同感」の概念です。

 現代の言葉では「同調」に似ています。または「賛同」と言い換えて理解してもイメージしやすいかもしれません。

「他人からの同感を得る=他人に同調してもらる=他人から称賛される、是認される」

「他人からの同感を得られない=他人に賛同してもらえない=他人から非難される、否認される」

 ということです。

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