企業は社会の公器である! 「増資インサイダー事件」や「コンプガチャ問題」にみる、経営者の商道徳欠如
野村證券本社〔PHOTO〕gettyimages

 私の社会人生活のスタートは野村グループの野村アセットマネジメントでした。でも野村グループにいたことをこのような公共な場で話すのはとても心苦しい思いがします。なぜなら、野村グループ出身者による不祥事が後を絶たず、また本体の野村證券までもが増資インサイダー問題を起こしているからです。不祥事を起こした野村グループ出身者といえば、オリンパス事件で逮捕をされた証券マンも、AIJ投資顧問事件で逮捕された浅川社長もそうでした。細かい事件を含めればもっとたくさんあります。

 私は明治大学で教えていることもあり、普通のビジネスマンよりも日常的に学生たちと接しています。もう10年以上学生たちを相手に教壇に立っていますが、年々彼らの株式投資に対するイメージは悪くなってきています。株式投資=ダーティー、真っ当な人間のすべきことでない、という意識の広がりは単に学生だけの問題ではなく、そのような社会的風潮の広がりが学生たちに反映されているだけ、と考えるのが自然でしょう。

 投資を卑しいものとする考えは今に始まった話ではなく、士農工商の江戸時代からの「商人」蔑視の雰囲気を引きずっているのでしょう。しかし、江戸時代がどうこうというよりも、この10年間でますます悪化しているのは、金融業界や証券業界の商道徳です。特に相次ぐ不祥事の中心に野村證券グループ自身やOBが関わっている事例があまりにも多く、同じグループ出身者として大きな責任を感じています。

増資先の企業に対するメンツや義理が優先された

 はっきり申し上げれば、今回の増資インサイダー事件の最大の原因は、経営者の儲け主義が先行としていたことだと、プロの立場からは言わざるを得ません。なぜなら、今回の事件の舞台になった東京電力、国際石油開発帝石、日本板硝子などは増資の発表前に、出来高をともなって激しく下落していました。その瞬間、業界では「インサイダーがあったのだろう」という噂が流れました。ということは当然、経営者が知らなかったはずはないのです。

 増資発表の前に出来高をともなってその企業の株式が下落するというのは尋常なことではありません。何らかの情報が漏れていると考えるのがプロとして当たり前の感覚です。この時点で手を打ってこなかったのがそもそも今回の問題だと私は思っています。

 「手を打つ」とは具体的にいうと、その段階で増資を一事中断をして、社内調査を行うことです。そうしていれば今回のような問題にはならなかったでしょう。もちろん社内調査で増資インサイダー事件が明らかになれば、それはそれで打撃は大きかったとは思います。しかし、少なくとも今ほどの問題にはならかったはずです。金融庁が問題視しているのはこの部分ではないかと思うのです。

 つまり、資本市場の担い手としての責任感や、社会的公器の担い手としての意識の欠如です。ただ増資を止められなかった事情はいろいろあります。もし社内調査のために増資を延期することになれば、東京電力などのスケジュールが影響を受けることとなり、発行体(株式を増資しようとする企業)に迷惑をかけることになるからです。

 特に震災前の東京電力は、上場企業の中でも絶大な力を持っていました。大手の証券会社であっても東京電力からみれば「ただの業者」ですから、そのようなミスをやすやすと許してくれるはずはありません。要するに、増資先の企業に対するメンツや義理もあり、増資インサイダーが行われている可能性がチラっと頭をよぎったとしても、中止するという意思決定ができるような状態ではなかった、というのが実態なのだと容易に想像がつくのです。

 ちなみにこれらはみな野村證券が関与していたわけではありません。案件ごとにJPモルガン証券や大和証券も関与しており、広く業界全体の問題といってよいことです。仲介手数料が下がり、そこで稼げなくなった証券会社では、投資信託の販売と増資の引受手数料が大きな収益源になっています。そんな状況の中で、増資インサイダーが行われているのを薄々感じつつも(さすがに奨励をしているとまでは思わないけれども)、収益のために目をつぶってきたというのがこの業界の経営感覚の実態なのだろうと思います。

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