21世紀の諸問題を理解するために振り返る「20世紀の意味」
軍隊より困難だと思われた通貨統合が成立したが・・・〔PHOTO〕gettyimages

 今の世界、そして日本で起こっている政治、経済、社会、文化などの分野での出来事をよりよく理解するためには、20世紀とはどのような世紀だったのかを振り返って考えてみることが役に立つ。

 たとえば、ギリシャ、スペイン、イタリアなどヨーロッパ諸国の財政危機は、20世紀の福祉社会論に大きく関わっている。それは、日本の税と社会保障に関する議論でも同様である。

 産業革命後、階級対立が社会の不安定要因となり、マルクスに代表されるようなプロレタリアート革命の理論が唱えられた。産業革命を実現した資本主義がかかえる矛盾が格差を生んだが、それに対する資本主義の側からの対応が、社会福祉論であり、混合経済論であった。社会主義の目指す理想を取り入れる形で、資本主義の改革を図り、労働者の保護を進めようというのが、その主張である。

 所得税の累進課税、年金、失業保険、有給休暇、医療保険などの諸制度が、社会主義からの挑戦に対応するために導入された。しかし、社会保障を充実させるには、財源が必要である。負担と給付のバランスと簡単に言っても、いったん到達した給付水準を引き下げることは難しい。同様に、増税もまた困難である。まさに、今日のヨーロッパや日本が苦悩している通りである。

 アメリカでは、政府による医療保険の導入に、共和党は猛反対している。最高裁は、オバマ大統領の改革案に合憲の判断を下したが、アメリカの論争は、ヨーロッパ人や日本人が、個人の自由と政府の役割について考える材料になる。アメリカのような根源的議論が、20世紀の遺産を再検討するためには必要なのではあるまいか。

独裁から民主主義へ

 20世紀はまた、戦争と革命の時代でもあった。1917年のロシア革命で生まれたソ連邦は、米ソ冷戦に敗れて解体し、民主主義への道を歩み始めた。旧ソ連邦を構成していた諸国も同様である。東欧共産圏が民主化への道を辿り、それがEUの拡大につながったが、その拡大と深化が、今日のヨーロッパの経済危機を招いているとすれば、皮肉なことである。

 しかし、19世紀に国民国家(nation state)が誕生し、それが戦争を引き起こした悲劇を克服するために、第二次大戦後、国民国家の枠を超える国家連合の試みが実行に移され、遂にヨーロッパ連合が生まれたのである。

 国民国家は、独自の言語、文化、軍隊、通貨などを持つ。ヨーロッパ連合の深化につれて、様々な制度が共通化されていったが、軍隊はまだヨーロッパ軍として統合されたいない。しかし、軍隊よりも困難だと思われていた通貨統合が成立したのである。そして、それが今日のヨーロッパの経済危機の源になっている。

 独裁から民主主義へという歩みは、日本の隣国である中国や北朝鮮では現実のものとなっていない。7月1日、香港が中国に返還されて15年になるが、一国二制度という謳い文句にもかかわらず、中国の圧力が強まっている。最近の重慶市の権力闘争をみても、中国が民主主義を実現したとは言いがたい状況にある。昨年は辛亥革命100周年の年であったが、孫文が求めた理想はまだ実現していない。

 中国の人民元の状況を見ても、アジアにおいて、ヨーロッパのような通貨連合や国家連合を形成することが当分は不可能なことは明白である。ミャンマーもまた民主化への道を歩み始めたが、普遍的価値である民主主義がアジアの地に定着するには時間が必要である。

 20世紀は、科学技術が大きく進歩した時代でもある。人々の移動手段を見ても、蒸気機関車、電車、新幹線、自動車、飛行機と大きく変化し、時間距離は革命的に短縮した。さらにIT技術の進歩は、人々の生活を根本的に変えつつある。インターネットはビジネスも変化させ、ツイッターは政治にも多大な影響を与えている。エジプトでは、初のイスラム主義政権が誕生したが、アラブの春も、ITの進歩が原動力となっている。「中国の春」の実現に、ツイッターは役立つのであろうか。

 その他の分野で起こっていることを理解するためにも、20世紀の意味を考えることが参考になる。たとえば、福島第一原発事故以来、脱原発依存が大きな課題となっているが、その課題に直面するには、石炭から石油へ、そして原子力エネルギーへと変換を遂げた20世紀のエネルギー革命の総括が必要である。

 さらには、小泉テレポリティックスから大阪の橋下現象を貫くポピュリズムは、ファシズム、ナチズムという20世紀の「現代の独裁」と現象面でよく似ている。

 近いうちに「20世紀の意味」について、一書にまとめようと思っている。

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