「プリンシプル規制」への移行で市場は健全化できるのか。 常態化する「増資インサイダー」の規制強化に乗り出した金融当局の議論の行方
金融庁による規制強化の必要性が叫ばれている

 インサイダー取引への証券会社の関与が後を絶たない。

 先週末(6月29日)には、野村ホールディングスが旧中央三井アセット信託銀行(現三井住友信託銀行)と米ファースト・ニューヨーク証券のインサイダー取引事件への関与を認めて社内処分に踏み切ったほか、証券取引等監視委員会の調べで大和証券が米ヘッジファンド傘下のジャパン・アドバイザリーに対してインサイダー情報を漏らしていたことが明らかになった。

 これらに先立ち、先週初め(6月25日)には、三井住友銀行からSMBC日興証券に出向していた元社員(出向先では執行役員)が金融商品取引法違反の疑いで横浜地検に逮捕される事件も起きている。

 こうした不祥事の続発を受けて、金融当局は、情報漏えい行為そのものは違法でないため証券会社を罪に問えない問題や、違法行為を限定的に列挙する罪刑法定主義、あるいはルール・ベースの処分にメスを入れるべきだと、金融庁による規制強化の必要性を訴える声が勢いを増している。

 しかし、それらが行き過ぎにならないかが心配だ。そうした規制強化は大きな副作用を伴うことを忘れてはならないだろう。

増資のたびに株価が下がる日本株

 このところ、大手証券がらみのインサイダー取引事件の発覚が相次いでいるのは、決して偶然ではないらしい。当局が監視の目を強めたので、その網の目に引っ掛かるケースが続出したというのが実態だというのである。

 金融庁のある幹部が明かしたところによると、事の発端は、今から2、3年前のこと。この幹部のところに、企業の成長性や収益性に着目して投資する戦略を採っている米ヘッジファンドから、日本株の株価形成を巡る不透明性や背後の構造的なインサイダー取引の存在を指摘する情報が寄せられたという。

 その幹部によると、米市場では、日本企業の増資が決まると、増資を引き受けた証券会社がその情報を流し、ヘッジファンドや機関投資家が該当する企業の株式をカラ売りして株価がさがったところで、増資株を購入によって買い戻し、甘い利益を享受しているというのである。

 この情報漏えい行為は、日本国内では日本証券業協会の自主ルールで禁じられているが、米国などでは、「プレ・ヒアリング」と呼ばれ、増資株の売れ行きをあらかじめ調査するためのマーケティング行為として容認されており定着している。

 証券会社の中には、念のため、証券会社から提供された増資を巡るインサイダー情報を悪用しないとの言質を取り付けた(契約を交わす例もあるとされる)うえで、具体的な銘柄や調達規模、発行時期を伝えるところもあるらしい。冒頭で紹介した野村証券の例は、まさに、こういうケースだったという。

 このため、証券会社がインサイダー取引の共犯に問われることはなかった。しかし、ファンドの中には証券会社との契約を破って、「濡れ手で、粟」の利益を貪っているところが少なくなく、日本株は増資のたびに下がるのが当たり前になっていた。

 日本経済の回復が遅れ、日本株相場の長期低迷傾向が続き、収益力や成長性に着目した純投資がペイしにくい中での仇花とはいえ、増資インサイダー取引は無視できない規模で流行し目に余る状況が存在したらしい。

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