核心対談 河野太郎(衆議院議員)×小熊英二(慶応大学教授) 「この国のかたちを考える」

~現代ビジネス特別版~
[左から] 河野太郎氏(衆議院議員)と小熊英二氏(慶応大学教授)

これ以上、原発に頼るのは無理があると国民は肌で感じている。それなのに原子力ムラの人々は、3.11などなかったかのように再稼動に固執する。二人の論客が、この「ギャップの本質」を抉り出す。

たとえて言えば、旧日本軍の作戦のようなもの

河野 大飯原発がとうとう再稼働することになりましたね。福島の過酷事故でこの国の原子力行政がいかにデタラメだったかが明白になり、国民の信頼が地に堕ちたにもかかわらず、野田佳彦総理は一貫して再稼働に前のめりだった。

 では、その安全性を誰が判断したかというと、総理を含めた4大臣だというわけです。科学的知見など持ち合わせていない素人の政治家に原発の安全性などわかるはずがないのに・・・。本来、政治が決めるべきことと政治で決めてはいけないことを完全に混同していますよ。

小熊 おっしゃるとおりだと思います。

河野 車と同じだという理屈を持ち出したりもしますよね。事故も起こすけど、便利だから使っているじゃないか、と。でも、自動車には酔っぱらっているときは運転しちゃいけないというルールがある。それと同じで、原発だって安全基準が確立されていない場合は、稼働しちゃいけないんですよ。

 しかも、関西の電力が足りなくなるから再稼働するという。でも、その理由も怪しいんですよ。だって、関西電力の需給調整契約を見ると、去年3月末には260件あったのに、今年3月末にはわずか24件。需給調整契約とは、企業との間で、電力が不足する場合は節電に協力する代わりに料金を割り引く契約です。

 つまり、今年の夏に電力不足になることは去年からわかっていたんですから、需給調整契約を増やしておくべきだったのに、逆に減っている。これは「再稼働しないと大変な事態になる」とアピールするための瀬戸際作戦じゃないかと思う。

 関西電力も、経産省もわざと手を打たなかったんです。こんなことを許しちゃいけない。これでは原子力行政の信頼性がさらに失墜するだけです。ひょっとしたら、原発から撤退したくてこんなことしてるんですかと皮肉を言いたくなるくらい、酷い仕事ぶりですよ。

小熊 外から見る限り、原子力行政は内側の手続きで終始している印象を受けます。信頼の失墜など気にとめていないし、致命的な問題だとも思っていないように見える。たとえて言えば、旧日本軍の作戦のようなもので、あれこれ調整して参謀本部の了解も取ってしまったから強行するしかない、敵がどう動くかは重要な問題ではないと(笑)。

 これまでずっと関係業界と霞が関と永田町の中の手続きだけでやってきたせいなのか、原子力行政が社会からどう見られているかとか、社会全体がどう変化しどう動いているかということまで、見通しと計算が働いていないようです。

河野 要するに、ガバナンスが喪失しているんです。

小熊 ミッドウェーで敗れたのに、あれは何かの間違いだった、まだ取り返せる、と思ってガダルカナルに兵力を逐次投入している、という状態に見えます。全体状況からずれているのに、それに気づいていない。

河野 あれだけ安全だと言っていた原発がとんでもない事故を起こした。それなのに、暫定的な安全基準で良しとして稼働させてしまう。原子力ムラは本当に内向きの社会だと思います。

小熊 そういう議論しかしてこなかったのではないでしょうか。原子力の専門家も、たいてい格納容器とか注水システムなど部分ごとの専門家で、原発というシステムをトータルに把握できる人や、原発の経済的・社会的位置を理解して方向を決められる人がいない。そのため転換ができず、結果として旧態依然とした手続きで動き続けているということだと思います。

 原発は初期投資が大きく、30年は安定的に運転しないとペイしませんが、'97年以降は経済が伸びず原発建設も停滞している。再稼動を強行しても、廃棄物の貯蔵先があと7~8年しかもちません。いまさら新規に廃棄物を引き受ける場所もないし、どう見ても先がない。もともと政府の補助がないと運営できない産業ですから、国際的にも原発は行き詰まりつつある。

 いま原子力を推進している国はロシア、中国、インドなど、核兵器を維持したい発展途上の権威主義国家です。先進諸国が原子力から徐々に離れつつあるなかで、日本がまだ原子力に引きずられているのは時代錯誤としか言いようがありません。

河野 そのうえ、日本は原発を海外に輸出しようとしている。福島第一の事故は原発が老朽化していたことも一因でしょうが、最大の原因は全体のシステムやマネジメントが悪かったことです。

 確かに一つひとつの部品は最高水準なのかもしれませんが、トータルで見たときに優れているとはとても言えない。体制がデタラメだったから、福島のような事故が起こったわけで、そんな日本の原発を輸出するなんて、どう考えてもおかしいでしょう。

小熊 しかも、輸出に当たっては技術供与やアフターケアがパッケージになっているし、燃料であるウランの供給まで日本がするという。日本はウランの輸入国なのに、そんなことできるのか大いに疑問ですが、これほどの好条件をつけなければ輸出できないというのが現実なんでしょう。

河野 メンテナンスまで全部面倒を見て、ビジネスとして成り立つんでしょうか? 赤字をつくるのがオチだと思う。原子力ムラが、まさにムラの利益を守るためにやっているにすぎない。

小熊 最後は国が穴埋めしてくれるからと、コストに見合わない事業を継続してきた。国は結局、業界や地元におカネを配ってカタをつける。そうやって、採算がとれない事業を「国策」だという理由で続けて、大赤字を残す。ダムや道路や新幹線にもある話で、日本社会のいろいろなところに存在する構図です。

河野 曖昧なままズルズルと引き延ばすやり方ですね。例えば国は青森県に対して、2045年までに最終処分場に移すという約束で、使用済み核燃料の中間貯蔵を行ってきた。ところが、最終処分場が約束の期限までにできないことは明白なのに、国はできないとは言わず、「いや、最後まで頑張ります」などと曖昧な言葉でごまかす。

 結局、原子力行政はそうやって地元との約束をごまかし、それを取り繕うために国民に対しては情報公開をせずにやってきたわけです。そういうふうに何重にも隠してきたものが、溜まりに溜まってドロドロになっていた。そのことに多くの人は、去年の3.11で一気に気づいた。

 だからいま、そのうみ膿を取り除かなくてはいけないのに、原子力ムラは依然として同じことを繰り返そうとしている。そのやり方はもう通用しないということを、今度こそはっきりさせなくてはいけないんですよ。

小熊 その役目は政治が担うしかないのですが、問題は、政治がそれを担える体制になっているかです。

河野 そうですね。これまでは政治と電力はズブズブの関係でしたし、一方で国民も無関心だったので、政治家に緊張感はありませんでした。ところがいまは、世の中に危機感が蔓延していて、政治が役割を果たすことを当然視しているんですね。

 にもかかわらず、永田町の中には、ほとぼりが冷めたら電力会社との関係を元通りに戻そうとか、電力の労組から票をもらおうと考えている連中が依然として多い。永田町の中と外で、意識がズレちゃっているのが現実です。

小熊 3.11以後の最大の変化は、国民の政治リテラシーが格段に上がったことだと思います。政治に対する危機感と関心、知識が急上昇した。原子力の問題は、日本という国のありようの縮図であると思った人は少なくないでしょう。

 それから、国民の政治参加が増えた。デモに参加した人は累計で十万人単位くらいでしょうが、政府の広報では信用できずに自ら情報収集した人は数千万人はいたでしょう。放射線を測ってみた人、役所に働きかけた人は百万人単位でいたと思う。広い意味で自発的な政治行動を起こそうという気持は、間違いなく上がったはずです。その意味で、日本の政治がここから変わる可能性がある。

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