社内情報共有を促進するエンタープライズSNSの興隆

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ヤマーのHP

 先週、多くの人を驚かせたニュースとして、マイクロソフトがエンタープライズ・ソーシャル・ネットワーク・サービス大手「ヤマー(Yammer)」を買収するという報道(想定買収額は10億~12億ドル、6月19日時点)が挙げられます。前回お伝えした、セールスフォース・ドット・コム(Salesforce.com)によるバディ・メディア(BuddyMedia)の買収のニュースとあわせ、エンタープライズ事業分野でのソーシャルメディア活用がますます本格化しつつあることを感じます。

■「Microsoft to Buy Yammer」 ウォールストリートジャーナル 2012年6月15日

 ヤマーとは、2008年9月に米ペイパル(Paypal)の元COOデイビッド・サックス(David Sacks)氏らにより設立された、組織内のコラボレーションを促進するためのウェブサービスで、同名の会社が運営しています。わかりやすくいえば、ツイッターやフェイスブックのインターフェイスや機能を備えた、クローズドなSNSです。

 現在、同社のサービスは、Ford MotorやeBayをはじめ20万社以上、Fortune 500企業の80%以上で採用されており、500万人以上の利用者のうち100万人近くが有料サービスを利用していて、大きな注目を集めています。

 ツイッターやフェイスブックが世界中で多くの個人に使われるようになった今日、ヤマーのおかげで、企業の中でも同じような共有のしくみを安心できる環境で使えるようになりました。それが、ヤマーが大きな成功を収めている理由です。

 マイクロソフトはすでに、ファイル共有やチャットのようなコラボレーションを可能にするソフトウェアを提供しており、ワード、エクセル、パワーポイントなど、ビジネスに欠かせないソフトウェアも多くの人に使われています。それに加えて、多くのユーザーを抱え、ソーシャルメディアの強みを活かしたサービスで絶大な人気を得ているヤマーの買収は、今後大きな相乗効果を生むのではないかと、期待の声が多く上がっています。

 ヤマーは日本でも使用が可能で、楽天やガリバーインターナショナルなどで導入された実績がありますが、今回は、日本でもまだあまり使われていない注目の社内SNSサービスを紹介します。

「ビッグデータ」+「エンタープライズSNS」、
「ナショナルフィールド」とは

ナショナルフィールドのHP

 ヤマーによって、社内の何気ない情報やアイディアの共有が可能になり、組織の透明性が高まりました。

 一方、2009年に設立された同様のインターナル・プライベート・ソーシャルネットワーク・サービス(社内SNS)「ナショナルフィールド(NationalField)」にはさらにユニークな点があります。それは、組織内でやり取りされた情報・データを可視化し、組織のイノベーションを高めることが可能になる点です。

 ナショナルフィールドは具体的には、「いいね」の数、投稿数、売り上げの見込み、訪問数など、日々のビジネス業務から得られる情報を数値化し、グラフ化します。明確な目的に対して、常に組織内で個々のパフォーマンスを可視化し、ある意味で互いのパフォーマンスを並べてゲーム化(ゲーミフィケーション)できるわけです。最近、欧米では特にその点に注目が集まっているようです。

 ナショナルフィールドが生まれたきっかけは、2008年、バラク・オバマ氏(現米大統領)の選挙キャンペーンに遡ります。当時、地方の選挙区でキャンペーンに従事していた20代の若者3名が、その活動の中で感じた非効率を解決するために生み出したのです。彼らは毎日、何名のボランティアを管理したか、何件の戸別訪問を行ったか、何人の支持者と意味のある話をしたか……など、組織内のパフォーマンスをリアルタイムで集約化する必要を感じていましたが、それが十分になされておらず、フラストレーションを抱えていました。

 そういう3人が創業したナショナルフィールドは、上司が部下の活動状況を一覧で見ることができるなど、トップダウン構造も取り入れている点もユニークです。これは、多くの人が関わり、情報のヒエラルキー構造も踏まえなければならない選挙活動だからこそ生まれた特徴と言えるでしょう。

 こうして「オバマ大統領誕生に貢献したSNS」として実績を上げたナショナルフィールドは、選挙終了後は企業として、急速に認知度を高めてきました。

 イギリス政府のナショナル・ヘルス・サービスや、全米最大規模の非営利医療保険グループ法人「カイザーパーマネンテ(Kaiser Permanente)」、世界的なNGO団体「ONE」、シエラクラブ、世界的な広告代理店「WPPグループ」、ユニリーバ、社会イノベーターのネットワーク組織でコワーキングスペースの「The Hub」、そして2012年のオバマ再選キャンペーンなど、合計130万人以上の人に利用されるサービスとなっています。2012年6月にはフリーミアムモデルの提供が開始される予定で、実現すれば、より多くの人にサービスが拡がるでしょう。

 このナショナルフィールドは、最近日本でも話題となりつつあるビッグデータの概念を活かし、組織内の日々の業務から紡ぎ出されるアイディアやデータをリアルタイムで可視化して意思決定に活用していくという潮流のシンボルです。こういう動きは、今後の企業やビジネスにとってますます必要になっていくだろうと強く感じます。

 創業メンバー3人の平均年齢が20代半ばと極めて若いのも新鮮です。そのうちの1人、エドワード・サーチ(27歳)は、世界的な広告代理店「サーチ&サーチ」の共同設立者&現エグゼクティブ・ディレクターであるモーリス・サーチ氏の子息です。彼はイギリスのメディアで「イギリスのマーク・ザッカーバーグ」と呼ばれ、新しい世代が生み出すビジネスモデルとしても話題になっているようです。

YES THEY CAN CNBC Business 2012年5月

■「ハイテク戦略を駆使し、再選を狙うオバマ大統領 今回の秘密兵器はソーシャルとビック・データ」小池良次氏「シリコンバレー・イノベーション」現代ビジネス 2011年11月

 組織内、コミュニティ内の情報共有を可能にするツールは今までも数多くありました。今後は従来にも増して、ツイッターやフェイスブックに慣れ親しんだ世代が次々とビジネスの主要プレーヤーとして参入してきます。その動きに連れて、ヤマーやナショナルフィールドの他にも、セールスフォース社が運営している「チャター(chatter)」、そして昨年米国で上場を果たした「ジャイブ(Jive)」など、さまざまなツールが広く利用されていくでしょう。

 一方、日本でも急速に利用者が拡大し、ビジネスの現場での利用も進んでいるように見えるFacebookのグループ機能を活用したコラボレーションも、注目を集めていくことと思います。

 こうしたツールの発展に伴って重要になるのは、「どうすれば組織内で情報共有の文化を醸成できるのか」というテーマでしょう。「内部で細かく情報を共有しよう」という文化を備えた組織や企業にこそ追い風が吹く。そんな時代の到来を感じさせる最近の買収劇は、はたしてどこまで進むのでしょうか。

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