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Closeup ルポライター・イラストレーター 内澤旬子
「大事に育て、その命を美味しく食べました」

飼った豚「伸」の頭蓋骨を胸に抱く内澤氏。現在、東京・西神田のスタジオイワトで展示会「内澤旬子のイラストと蒐集本展」が開催中だ(6月16日まで)〔PHOTO〕小檜山毅彦
農家帽子をかぶり、首にはタオルを巻き、つなぎを着用するのが氏のいつもの作業スタイルだ。夢と一緒に〔PHOTO〕本人提供(以下同)

ペットを可愛がるのとは違う。いずれは食べられる三匹の豚を飼育した毎日を語った

「思いもかけない感覚でした。肉を食べた時、『あ、私のところに戻ってきてくれた』と感じたんです。彼らがよく鼻づらをくっつけてきて『よしよし』と撫でていた時の甘やかな気持ち。それが肉を食べた瞬間によみがえって、自分でもびっくりしました」

 '08年10月から'09年9月までの約1年間、豚を飼う環境を整え、生後数ヵ月の三匹の子豚を手に入れ、寝食をともにするようにして育て、出荷できるまでに太らせた。そして加工されて戻ってきた肉の塊を調理し、集まった友人らとともに「食べる会」を開いて〝完食〟---。

 ルポライター・イラストレーターの内澤旬子氏(45)による、その稀有な体験は、今年2月に刊行された著書『飼い喰い 三匹の豚とわたし』(岩波書店)に結実した。感傷のフィルターを排し、なおかつ、しょせん家畜と突き放しもせず、食用豚ときっちり向き合った日々をユーモラスな筆致で綴っている。'07年の著書『世界屠畜紀行』では屠畜現場を知るべく、海外取材を10年にわたって続けたが、今回は「屠畜に至るまでの豚の一生をこの目で見てみたい」という気持ちが出発点だった。

「ところが養豚業者への取材は、非常に難しいんです。豚は外部から持ち込まれた病気に感染するケースが多いため、牛以上に人の出入りに気を遣います。そのため、どの養豚業者も基本的に作業員以外の者を豚舎に入れることはありません。もちろん部外者が豚に直接触れることなんて不可能です。こうなると、豚を知る方法は一つだけ。自分で飼うよりほかないなって」

 かくして豚をめぐる奮闘の日々が始まるのである。