雑誌
更迭は当然!中国人(李春光・一等書記官)スパイと鹿野(前農水相)を結ぶ「マル秘文書」
日本側のキーマンを直撃!諜報騒動の裏にある
「中国検疫ビジネスを巡る闇」を追う
更迭当日の鹿野前農水相。中国人スパイ問題について「関係ないと思っている」

 今年2月24日付で「中華人民共和国大使館経済参事処」が「農林水産大臣殿」に送った1枚の文書。本誌が入手した上のペーパーこそ、6月4日に事実上更迭された鹿野道彦前農水相(70)と、スパイ疑惑をかけられて〝緊急帰国〟した在日中国大使館の李春光・一等書記官(45)とを結びつける接点である。

 情報を求める中国政府の〝間者〟に、機密文書を快く渡していた農水省。鹿野氏についても、李氏と会食したことがあるなどと報じられているが、トップ自ら彼と付き合いがあったことを示す決定的な証拠だ。

李春光氏は松下政経塾の20期生で、卒業生の多い民主党内には人脈が多いという

 松下政経塾に在籍したことがあり、大学の客員研究員というニセの経歴で企業向けセミナーを展開して荒稼ぎ。その正体は、中国人民解放軍総参謀部の諜報機関に所属するスパイだった---。警視庁公安部の描いたこのシナリオは小説のように物々しいが、結局、李氏については身分を隠して外国人登録証明書を取得したという〝微罪〟で書類送検しただけ(外交官の身分を保障するウィーン条約は、彼らの商業行為も禁じている)。日本にいない李氏を東京地検が不起訴処分にする公算は高く、壮大なストーリーに反して、実にお粗末なオチとなりそうだ。

異例すぎる「農水省顧問」

 しかし、捕まえられないからこそ、ボロボロと捜査情報が漏れ出たのだろう。お陰で李氏にかかわった国会議員は、そろって疑惑の渦に巻き込まれた。

 公安関係者の証言を総合すると、発端は李氏が中心となって始めた〝勉強会〟だった。中国相手のビジネスについてのノウハウを話し合うという触れ込みで'10年にスタートしたこの勉強会には、中国大使館職員だけでなく、民主党議員や秘書、農林水産省の担当者、中国と取引のある商社の関係者らが参加した。この参加者の中に、樋口俊一代議士の元公設秘書・T氏が含まれていた。

 勉強会を通じてT---李のパイプは太くなり、T氏は李氏から中国農業部(日本の農水省に相当)傘下の国有企業「中国農業発展集団」の関係者を紹介されるようになったという。そしてT氏と李氏、農業発展集団の三者が考え出したのが、北京に日本の農産物の展示場を設け、その農産物に限って検疫免除の特別措置を実施すると謳い、対中輸出ビジネスに関心のある日本企業から出資金を募る策だった。

 中国には煩雑な検疫制度があり、時に「日本産のコメにはカツオブシムシ(害虫)がついている」などの難癖をつける。そんな背景があるからこそのアイディアだった。T氏は「農林水産物等中国輸出促進協議会」を立ち上げ、代表に就任した。ちなみに、協議会の事務所が置かれているビルの一室は、鹿野氏の後援者が所有している。公安関係者が言う。

李氏のサインが入った鹿野大臣宛の文書。書記官に太鼓判を捺され、ビジネスの成功を確信したというのなら、やはり更迭されて然るべき大臣だった

「彼らが実行に移したのが、民主党の農水族を抱き込む工作だった。中でもTと親しい前農水副大臣の筒井信隆には、『停滞する日本農業を元気にするため』などのフレーズで接触し、乗り気になった筒井も、'10年12月に来日した農業発展集団の劉身利董事長との間で『中国への日本の農産物の輸出促進のために北京に展示場を設ける。日本の農水省も全面的に支援する』などという覚書に署名した」

 この証言どおり、農水省は本腰を入れていく。'11年1月28日には、農水省が国内の食品関連会社や地方自治体の担当者らを日本青年館に集め、再来日した農業発展集団の劉董事長らに事業の説明をさせている。この時には副大臣の筒井氏だけでなく、鹿野氏も大臣として出席し、挨拶している。さらに、一秘書に過ぎないT氏が異例にも農水省顧問に就任した。省庁の顧問は、通常、事務次官クラスの大幹部が定年後に就任するポストだ。

 冒頭に紹介したペーパーは、「中国人スパイ」騒動が持ち上がり、野党からの追及にさらされた鹿野、筒井両議員が、「検疫の特別措置なんて本当に実施されるのか」と疑問を抱くようになり、それをなだめるために李氏が送ったものだとされる。「たかだか一等書記官が差出人の書簡が、なぜ信用に足るのか」(民主党関係者)という指摘はもっともだが、民主党の正副大臣は安心した。筒井氏は3月1日の記者会見で「検疫の特別措置は認められる」と大見得を切っている。

農水相の正副大臣を〝架空の儲け話〟に巻き込んだT氏。警察の捜査について「勝手にすればいいじゃない」

 鹿野氏が更迭される前日、疑惑の発端であるT氏を本誌は直撃した。自宅から出てきたT氏は、最初から激昂した。

「俺が何か犯罪でもやったのか!(李一等書記官が中国に帰りましたがと問うと)関係ないっつってんの!」

 近くで遊んでいた祖父と孫らしき二人が驚いて振り返るほどの大声で取材を拒否すると、T氏は小走りで去っていった。

 鹿野氏は事務所を通じて「あくまで私のカウンターパートは程永華在日本中国大使で、中国農業発展集団であれば劉氏だ。どのような形でも李氏との個別での接触はない」と回答している。筒井氏は「時間がない」と取材を拒否した。

 T氏が強気なのも、李氏が捕まる可能性がないからだろう。だが、公安部が張り切ったスパイ疑惑とは別に、この問題を事件化する動きも見られる。

「促進協議会が『検疫フリー』を謳って1口25万円の会費ばかりか、基金名目で製薬会社などからもカネを集め、その額は1億8000万円に上るとされる。一部が中国に送金されているとも言われるが、いずれにせよ検疫フリーの触れ込みが虚偽に当たると見て、警視庁捜査二課が詐欺罪で立件できないか、関心を持っている」(全国紙社会部記者)

 事実、昨年12月と今年3月の2度にわたり、検疫の特別措置など認めるつもりはない、と中国の質検総局(検疫を管轄)は促進協議会、農水省に伝えている。

 捜査当局の動きに注目したいが、もはや民主党議員の脇が甘いことに、中国の高官も、日本の国民も驚きはしない。

「フライデー」2012年6月22日号より

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