フィルター付きベントも防潮堤もないのに「事故を防止できる対策と対応は整っています」と大飯原発再稼動に踏み切る野田首相。
政治と官僚の迷走、ここに極まれり!

大飯原発再稼動の方針を発表した野田首相〔PHOTO〕gettyimages

 関西電力・大飯原発3、4号機の再稼働が秒読み状態になった。今回の再稼働は多くの点で「先に結論ありき」の乱暴な決定だが、肝心の安全面に絞って問題点を詰めておきたい。まず6月8日の野田佳彦首相の演説をふりかえる。野田はこう述べていた。

「福島を襲ったような地震、津波が起こっても事故を防止できる対策と体制は整っています。これまでに得られた知見を最大限に生かし、万が一、すべての電源が失われるような事態においても、炉心損傷に至らないことが確認されています。これまで1年以上の時間をかけ、IAEA(国際原子力機関)や原子力安全委員会を含め、専門家による40回以上にわたる公開の議論を通じて得られた知見を、慎重には慎重を重ねて積み上げ、安全性を確認した結果であります。

 もちろん、安全基準にこれで絶対というものはございません。最新の知見に照らして、常に見直していかなければならないというのが、東京電力福島原発事故の大きな教訓の一つでございます。そのため、最新の知見に基づく30項目の対策を、新たな規制機関の下での法制化を先取りして、期限を区切って、実施するよう電力会社に求めています」(読売新聞6月9日付による)

 一国の首相にこうまではっきりと断言されると、さすがに「総理が嘘は言わないだろう」と思ってしまうだろう。ところが、これは最初の結論がデタラメである。5月25日付けコラムで「シロアリ発言」の嘘を指摘したが、それに匹敵するといっても過言ではない。

仕方なく保安員の対策をフレームアップ

 まず、上の演説はそもそも自己矛盾に陥っている。野田は前段で「事故を防止できる対策と体制は整っています」と言いながら、すぐ後段では「安全基準に絶対はない」として「最新の知見に基づく30項目の対策を期限を区切って実施するよう電力会社に求めている」と述べている。典型的な自家撞着だ。

 対策がすでに整っているなら、どうして電力会社にまだ対策を求めるのか。対策ができていないから「期限を区切って」早くやれと要求しているのだろう。将来の対策を要求するのは、現在は対策が整っていないからにほかならない。

 こういう子供でも分かるような矛盾した論理を平気で総理に喋らせるのは、野田自身の能力の低さもさることながら、演説を書いた官僚なり側近のデキが悪いからだ。この部分は演説の冒頭近くにあるが、ここを聞いただけで「こりゃダメだ」とがっくりきた。

 では、演説に出てくる「30項目の対策」とは何か。これをまとめたのは原子力安全・保安院である。

 本来、原発の安全性チェックは保安院の役割だが、野田の前任である菅直人前首相は「保安院は事故で国民の信頼を失った」という理由でストレステスト(安全評価)の実施を決めた。当時の枝野幸男官房長官(現・経済産業相)ら三閣僚は文書で「保安院による安全性の確認について疑問を呈する声も多く・・・」と信頼失墜を認めていた。

 ところが、本格的なストレステスト実施となると、時間がかかって再稼働が大幅に遅れてしまう。そこで急きょ、簡易版の一次評価と二次評価に分けた。これならOKかと思いきや、安全委の班目春樹委員長が「一次評価だけでは不十分。二次評価もやるべき」と2月20日の記者会見で表明し、ストレステスト→再稼働路線が暗礁に乗り上げてしまった。

 そこで野田が持ち出したのが、保安院による安全対策だ。それがまとまったのは、班目会見直前の2月16日である。一次評価で安全委のお墨付きが出れば、それでGOとなるはずだったと思われるが、期待に反して班目が抵抗したので、仕方なく保安院の対策をフレームアップする作戦に出たのではないか。

 いずれにせよ、菅政権がいったんダメ出しした保安院を再び持ち出して、今度は「保安院が対策を決めるので大丈夫」というのは完全な逆戻りである。「保安院はダメだ」という文書に署名した枝野はいったい、どう考えているのだろうか。

 しかも、前々回のコラムで指摘したように、細野豪志原発事故担当相は再稼働に反対していた滋賀県など自治体に配慮して「いまの国の基準は新しい原子力規制庁ができるまでの暫定基準」と言っている。それでは野田演説との整合性がとれない。迷走も極まれりというほかない。

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