現代ビジネス×クオンタム流経営塾特別対談 猪瀬直樹×出井伸之(下)
「東京と大阪が頑張って、二つの柱ができれば日本は元気になる」

猪瀬直樹さん(東京都副知事)と出井伸之さん(元ソニーグループCEO/現クオンタムリープ代表取締役)

(上)編はこちらをご覧ください。

伝統が発展の力になる

猪瀬: 日本ではかつては進歩的文化人という人たちがいて、日本はダメだダメだとか言っていた。今でも顔ぶれが変わっただけで、テレビのコメンテータは日本のことをダメだダメだと言ってるだけです。それでプライドや誇りがなくなってきているところがある。橋下さんの元気みたいなものは大事なことなので、それをもうちょっと振り返ってみようかな、と思います。

 それで、竹内洋という人が京都大学の教授をやっていて今は関西大学にいるんですが、進歩的文化人というのは何だったのかというのを整理して本にしているんです。なかなか良い本です。

 彼が最近の学生に「左翼」と言ったら、「左翼って何ですか」と聞かれたらしいんですね。左翼はがからないんですね。でも、右翼は知っているらしいんですよ(嗤)。街宣車とかそういうイメージなのかな。

出井: 今は「ネット右翼」というのがいますからね。

猪瀬: ネット右翼は聞いたことがあるからわかるらしくて、原理主義的で言動が激しいとか、そういう認識なんです。じゃあ左翼って何なのかということがわからないらしい。だから、すでに左翼は日常用語ではなくなっているんですね。

 だけど、日本の文化的言説って責任をとらずに批判するという言い方が一つのステロタイプとしてずっとある。左翼とか進歩的文化人がいなくなっても、テレビのコメンテータとか評論家のなかには、そのステロタイプをずっと続けている人が基本的に多いんですね。

 そういう言説と霞ヶ関は、実は相性が良い。批判しているといっても不平不満の集積なんですね。霞ヶ関は淡々と仕事をして自分たちのやりたいことをやっていき、「昨日の世界」を守っていく、と。それに対して橋下さんの自由な言い方は有効で、橋下さんも石原慎太郎も喧嘩ができるでしょう。彼の新しい展開は、僕はあの言葉だと思いますよ。

 野田さんて、自分のことを「どじょう」と言ったけど、あれは原稿を読んでいるだけだね。菅さんも読んでいるだけだし、鳩山さんは宇宙人だから変なことも言うんだけど、普天間のことにしろ現実味のない話をするわけでしょう。結局みんな原稿を読んでいるだけだから、自分の言葉がない。こんなに言葉がないリーダーのいる国って、他にあるのかな。

出井: オバマ大統領なんか今非常にピンチだけど、一生懸命自分の言葉でしゃべっていますしね。

猪瀬: ピンチでもいろいろ言いますよね。それをまた、聴衆も「そうかな」とか「そうじゃない」とか議論しますよね。一時「ハーバード白熱教室」という番組が話題になりましたけど、やっぱりビジョンを言ったらそれに対して合理的可能性があるかないかとか議論の対象になるわけで、ビジョンを言ってこないと反応のしようがないんです。

出井: そういう意味では、日本の成長期に乗っかって批判したり評論する人ばかりが育ってしまった。今は本当に日本はアメリカがそんなに頼れる存在でもなくなりかけていますね。そうなると日本は、昔の仲間のアメリカと、それから中国と、どうやってつきあっていくのかを真面目に考えないといけませんね。そうしていくことで、中国の人たちから見て行きたくてしょうがないような街にできると思うんですよね。

猪瀬: シンガポールや香港と東京の違いってあると思うんですよ。シンガポールや香港はイギリスの伝統とミックスしているんです。日本の伝統というのは新しさとかなりミックスして良いものを生み出していますね。今回の大震災は1000年に一度の規模だというけれど、1000年前に一度あった大震災からわれわれは生き抜いてきているわけですから、そういう部分についての自覚が必要なのではないかと思います。

出井: それはありますね。東北の人たちの顔を見ていると、無常観のようなものを感じて、アメリカのロサンゼルスで震災に遭った人たちとはまた別の反応だと思うんですね。諦念があるというのか。

猪瀬: 「諦め」というのは「明らめて見る」という内省的な言葉ですから、われわれは本来そういう内省的なものを持っているはずです。四季鮮やかな世界で感性が研ぎ澄まされていて内省的であり、しかも無常観を持って数々の災害に耐えてきているという、そういう部分が新世紀を生み出す本来の底力だと思うんですね。

出井: 日本の包丁が良いとか土瓶が良いとか、いろいろ評価されている工業製品がありますけど、あれは生活に密着した道具だから良いわけで、何も芸術品というわけではないですね。そういう面で、日本はものづくりの国というか、大量生産でテレビを何千万台も作るのがものづくりというのではなくて、本当に価値のあるものを生み出すような下地は十分あるんだと思います。

 ずっと、大きいことは良いことだ、みたいになってしまっていたから、中国と競争したら中国のほうが大きいのに決まっていますよ。日本は違う道を探していかなければならないですね。

猪瀬: それから、日本の伝統のようなものについて歴史の知識というか、そういうものがもう少しないと困るな、というところがあります。

出井: たとえば鎖国は負の面ばかりが語られているけれど、鎖国をしていたおかげで日本文化が熟成されたという部分もある。最初から開国していなかったらキリスト教文化がもっと入っていたり、大国の植民地にされていたかもしれない。そういうことを考えて、日本はどういう国なのかという価値観を問い直すということは非常に重要だと思うんですよ。

猪瀬: 鎖国によって江戸時代にある種のガラパゴス化があったわけですよね。1603年に江戸幕府ができて、1702年の元禄時代に赤穂浪士の討ち入りがあったわけですが、その100年間が高度成長期で、人口が倍になっているんですね。そこから170年くらいはずっとフラットなんですが、それまでは高度成長期で、文化文政の頃には世界に冠たる技術力が深みを増すんですね。

 大阪の堂島で先物取引も始まっていますが、これは今のデリバティブに当たるわけで、世界で初めてやっているわけですね。そういうところを含めて、日本に可能性があるとしたら、ヨーロッパもかなり成熟していますが、日本は成熟国家としての歴史を一回経験しているということなんですね。

 ヨーロッパのいろいろな国々が17、18世紀はずっと戦争していた。毎日どこかしらで戦争をしていたわけです。日本だけ戦争がなくて、独自の成熟を果たしたわけで、日本は元禄が終わってから幕末まで170年くらい、少子高齢化のモデルを形成しているんですね。

 そうすると、一回われわれはそういう社会を経験して成熟を持っているんですね。しかもそれが元々の、それこそソニーとかの企業文化の基になっているわけですから、もっと自信を持てばいいんですけどね。

出井: 日本の誇るべき伝統と文明というのは個人個人が自覚しなければいけないですね。

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