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「2度目の絶望」------計り知れない精神的ショック、どう考えるべきかがん「再発と転移」の研究

 手術は成功、長い闘病生活を終え、ようやく治った---と思ったところで驚愕の事実を告げられる。再びがんが発覚。別の臓器に転移しているという。なぜ再発してしまうのか。どうしたら、乗り越えられるのか。

胃から肝臓、肺、脳へ

「やっとまた店に立てる日がきた、そう思えたときだったんです。まさかまた同じことを繰り返すことになるなんて、夢にも思っていませんでしたから」

 元プロ野球選手の横山忠夫氏(62歳)は、医師からがんの再発を告げられ、頭が真っ白になった。

 立教大のエースだった横山氏は、'71年秋のドラフト1位指名で巨人軍に入団。ロッテを経て'78年に引退するまで、通算12勝15敗の成績を残した。その後、東京・池袋にうどん店『立山』を開業。そして50歳のとき大腸がんを患い、手術を受けた。3ヵ月の入院と約4ヵ月の自宅療養を経て、体力も回復してきたそのとき---念のために、と受けた検査で、大腸がんの肝臓転移が発見されたのだった。

「このときのショックは、最初に大腸がんが見つかったときよりもすさまじかった。大腸がんのときは、腹痛があったのにそれをずっと我慢して病院へ行かなかったから深く反省したんです。でも完全に治ったと思っていましたし、症状もなにもない。他の臓器に転移するなんて知識もなかったですから。酒は飲むけど、体力はあると思っていましたが、その自信が一気に吹き飛びました」

 手術は成功したはずだった。にもかかわらず、別の場所にがんが顔を出すことは、まれなことではない。国立国際医療研究センター外科部長の斉藤幸夫医師が言う。

「手術ができる大腸がんの場合、再発率は、直腸がんで平均24・6%、結腸がんでは15・6%あります。さらに、大腸がんは肝臓と肺に転移して再発するケースが多い。大腸に流れる静脈の血は、まず肝臓を通り、その後、肝臓を出て心臓に戻って肺へ行きます。この血液の流れにがん細胞が乗ってしまうと、肝臓と肺に転移しやすいというわけです」

 別の場所に転移してがんが見つかったのであれば、そこをまた手術して取ればいい、と思うかもしれない。だが、がんはそう単純なものではない。

「1ヵ所に転移していれば、他の場所にも転移している可能性があるということ。見えないがんが広がっているかもしれないわけです。それであれば、別の場所に新たながんができるほうが治療はしやすく、転移のほうが危険だと言えます」(聖路加国際病院乳腺外科副医長・矢形寛医師)

 一度は治ったと思ったがんが、また新たに出現するという再発・転移の恐怖。その2度目の絶望は、肉体よりもむしろ精神的に大きな打撃を受ける。近年では、治療の技術とともに心のケアも進歩してきているのだが、その紹介の前に、まずは基本的な点から確認していきたい。そもそも、がんの「再発」や「転移」とは、どのような状態のことを指すのだろうか。