官々愕々
「規制庁法案」急進展の舞台裏

 5月30日、いわゆる4大臣会合で大飯原発再稼働が事実上決まった。一方、原子力規制庁設置法案の審議も急ピッチで進んでいる。この動きの中で、崩壊すると信じられていた原子力安全神話と原子力村がゾンビのように蘇りつつあることがはっきりしてきた。

 原子力規制庁法案の審議開始とともに流れて来たのは、こんなに重要な法案がわずか十数時間の審議で参考人も呼ばずに衆議院を通る見込みという情報だ。2月の国会提出後ずっと店晒しになっていたのに何故こんな急展開になっているのか。

 その決定的要因になっているのが、海江田万里経産相、枝野幸男官房長官、菅直人首相(いずれも当時)の「原発責任大臣トリオ」参考人聴取などで一躍脚光を浴びている国会の事故調査委員会(黒川清委員長)の存在だ。国会事故調は6月中に報告書をまとめる予定だが、原子力村から見るとかなり厳しい内容になることがわかってきた。とりわけ、新たに作られる原子力規制庁を、完全に国際標準に合致した、真に独立した規制機関にすべきだと強く提案する見通しなのだ。

 全職員の出身省庁への「完全ノーリターン」ルールの設定、民間人出身職員も原子力村の企業への再就職禁止、国際標準の安全規制を実施するために外国人を含めて真に能力があり独立して安全規制を実施できる職員のみの採用など抜本的な改革を迫られる。そんなことになったら、今審議している規制庁案では全く不十分となるのは必至。真の安全規制が実施され、日本の原発は一つも動かせなくなってしまうだろう。

 そこで、報告書が出る前に何としても法案を通してしまいたいという原子力村の意向を受けて、民主党と自民党の守旧派さらに公明党まで入って修正の協議が行われている。これを支えるのは、もちろん経産官僚だ。彼らの狙いは、原子力安全・保安院の大半の職員を平行移動させた形だけの原子力規制庁を作ること。その後、短期間で「新たな」安全基準を作り、「新」規制機関による「新」基準に基づいた「完璧」な安全審査というお墨付きを与えて、原発全基再稼働に突き進もうという企みである。

 30日に開かれた関西広域連合の会議に出席した細野豪志原発担当大臣の言葉を聞いて驚いた。細野氏は、大飯原発再稼働の前提となる安全基準を「暫定的」なものと認めたからだ。国の再稼働方針は覆らないという前提で、橋下徹大阪市長が、安全の判断が完全でないなら動かす場合でも時限的なものにすべきだと発言したのを上手く利用して、「安全基準が完全でないと認める代わりに再稼働を実現する」という道を選んだのだ。そして、「新たな」規制庁が「新たな」基準で判断して、安全ではないとなれば運転停止もあり得るということまで認めた。

 これまでは、新規制庁が甘い判断をしてくれる保証はなかったが、ここに来て、自分達の思い通りになる新規制庁が誕生する見通しが立ったので、思い切って方針転換したのであろう。

 これでは、規制庁設置法案の国会通過から10日前後で出るであろう国会事故調の報告書はいったい何の意味があるのか。自分で作った組織の存在意義を否定する国会は、自らの存在意義も否定してしまうことになるのではないか。

「週刊現代」2012年6月16日号より

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 福島第一原発の事故で原発の恐ろしさに目覚めた人、原子力ムラの企みと横暴に怒りを感じた人、そして「脱原発」を目指す多くの人に、真実を伝え、考える道筋を示し、そして希望を与える「魂のメッセージ」。