サッカー
二宮寿朗「アジア進出のメリット」
~Jリーグの未来像<前編>~

 1993年に華々しくスタートしたJリーグは今年、開幕20年目のメモリアルイヤーを迎えている。発足当初は社会現象ともなったが、95年以降のいわゆる“Jリーグバブルの崩壊”を経験。苦しい時期を乗り越えて安定した人気を誇ってきている。

 しかしながら、近年は状況がいささか変わってきた。

 J1の1試合平均観客数は2011年で1万5797人と前年(1万8428人)より14・3%下回り、3年連続で下降中。東日本大震災の影響も大きいと言えるが、今季も2010年ベースまで回復できている状況ではまだない。また、J1クラブの営業平均収入も2010年会計年度では30億3000万円とほぼ横ばいの状態。J最大の人気クラブである浦和レッズはトップの約56億円の収入があったものの、前年比で2億5000万円以上の減収となってしまった。

 節目を迎えたJリーグは今、どのような未来像を描いているのか。2回にわたって探ってみることにしたい。

タイ、地上波放送のねらい

 今回のテーマは「アジア戦略」。Jリーグは20周年を契機にタイに進出し、6月から同国の地上波でJ1リーグ戦のテレビ放送(毎週1試合、録画放送)をスタートさせる。国外でリーグ戦が地上波放送されるのは初めてのことだという。この新たな取り組みがJリーグにもたらすものとは?

「タイを含め東南アジアは昔からサッカーが盛んで、サッカーを好む土壌があります。テレビの視聴では英プレミアリーグの人気が非常に高い。タイでの地上波放送が今すぐにビジネスに直結する話ではありません。ただタイ全土で放送される地上波のメリットはとても大きいと考えている。Jリーグの試合を見て広く知ってもらうことがリーグそのものの価値、リーグを応援してくれているスポンサーさんの価値を高めることにもなる。タイには日本企業も多く進出していますから、スポンサーさんにとってもメリットが出てくることになるでしょう」

 Jリーグの中西大介競技・事業統括本部長はタイ進出の狙いをこのように口にする。すでにタイのGMMグラミー社を通じて3月からCSによるテレビ放映を始めているが、タイ全土で視聴可能となる地上波の放送となれば反響も出てくるはず。放映権料収入は見込めないものの、目先の資金よりもまずはブランドを認知させることを優先させるという。反響が出てくれば、東南アジアに進出する日本企業の新規スポンサー獲得にもつながるというわけだ。

 放送に合わせるかのように今年2月にはタイ・プレミアリーグとパートナーシップ協定を締結している。この動きに対してJリーグのヴィッセル神戸がチョンブリFCと、セレッソ大阪はバンコク・グラスFCと業務提携を結んだ。セレッソの親会社ヤンマーがタイに工場を持っていることも背景にはあるようだ。早速、指導者の派遣など、交流は始まっている。近い将来、出場機会に恵まれない選手の期限付き移籍、そしてタイの有望な選手がアジア枠(AFC加盟国の選手は1クラブ1人登録できる)を使ってJリーグでプレーすることも考えられる。

 中西氏は言う。
「放送で流れる、現地でリアルな活動がある、その国の選手がプレーしている。これら3つがそろうことでビジネスとして広がりを持つことになると思うんです。Jリーグは20年やってきましたし、そのノウハウをタイのプレミアリーグとシェアすることになります。タイのなかでグッドイメージを広げることを考えていきたい。あくまで可能性の話ですが、たとえばタイ・プレミアリーグへのトライアウトを日本で実施するとか、そういうことも考えられるようになります」

 このタイ進出はアジア戦略のきっかけに過ぎない。

 ベトナムでも放送を始める交渉が最終段階まで詰められてきており、インドネシア、マレーシアでの協議も進めているという。日本企業の参入が盛んになっているミャンマーとも話が始まっているようだ。