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米国で普及しないグーグル版「おサイフケータイ」、その理由と背景を探る

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Google Walletで使われるスマートフォンとリーダー。(Mobile World Congress 2012で筆者が撮影)

 Googleのモバイル決済サービス「Google Wallet」が米国で開始されてから、今月で約1年が経過した。小売店等に置かれた読み取り機にスマートフォンをかざすだけで支払ができることに加え、各種の電子クーポンやポイント・カードの代わりにも使えるGoogle Wallet(写真)は、私たち日本人に馴染み深い「おサイフケータイ」のGoogle版、あるいは米国版と見ることができる。

 世界的なハイテク企業が鳴り物入りで始めたサービスだけに当初大きな注目を浴びたが、1年後の結果は「期待外れ」の印象を拭いきれない。2012年の6月時点で、Google Wallet機能を搭載したスマートフォンはせいぜい4、5機種。使える端末の機種数がこの程度では、同サービスの利用者数は極めて少ないと見られている。

 Googleは今後もGoogle Walletの普及に力を入れて行くことは間違いないが、少なくとも、これまで上手く行かなかった理由は、同社が良い仲間を見つけられなかったことにある。モバイル決済サービスは、GoogleのようなIT企業が単独で成し遂げられるほど単純なビジネスではない。

 そこには決済ネットワークを提供するクレジットカード会社、無線回線を提供する通信キャリア、スマートフォンを開発・製造する端末メーカーなど様々な業界が絡んでいる。彼らの利害が複雑に絡み合い、お互いに様子見や牽制に終始する中で、単にGoogle Walletのみならず、世界各国のモバイル決済サービス(ページ3、表1)は期待が先行するばかりで、実際には足踏みを続けている(対照的に、日本でかなり普及した「おサイフケータイ」はむしろ例外的な存在と言えるだろう)。

異なる業界の利害が衝突して前進しない

 Googleが、ニューヨークやサンフランシスコなど米主要都市を起点に、Google Walletサービスを展開し始めたのは2011年5月末のことだ。開始に際して同社が提携したのは、クレジットカード業界ではMasterCard、通信業界ではSprintだった。このうちMasterCardはかなり以前から「ペイパス(PayPass)」と呼ばれる非接触ICカードを使った決済事業に着手していた。

 ペイパスのリーダー(読み取り機)は米国だけで約15万台、全世界で約28万台が設置されている。Google Walletはこのペイパス・リーダーにかざして使うことができる。かなりの数にも思えるが、日本のおサイフケータイのリーダー数が(当然、日本だけで)約150万台に達することと比べれば、Google Walletのそれは非常に少ない。

 またGoogleが提携したSprintも、米国の通信業界では一応、主要キャリアの一角を為すものの、業界のトップを走るVerizonや同2位のAT&Tに業績で大きく水を開けられており、昨今はむしろ「弱小キャリア」に成り果てた感がある。

 日本と同じく米国でも、通信キャリアはスマートフォンのような携帯端末の開発や販売に大きな影響力を持っている。つまりGoogle Wallet対応端末を普及させる上で、通信キャリアの協力は欠かせない。この点で、Googleが弱小のSprintと提携したことはまずかった。同社がいくら端末メーカーに働きかけても、Google Wallet機能を搭載したスマートフォンの数は一向に増えなかった。

 一方、VerizonやAT&Tなど強力な通信キャリアはGoogle Walletに非協力的だった。なぜなら彼らは「Isis」と呼ばれる共同プロジェクトを立ち上げ、そこでキャリア主導のモバイル決済サービスを始めようとしていたからだ(このIsisも掛け声ばかりで中々始動しなかったが、今年の夏には漸くソルトレイクシティなど一部の都市で試験サービスを開始する予定)。またMasterCardのようなクレジットカード会社も実は、自分たちでモバイル決済ビジネスを仕切りたがっており、本気でGoogleに協力する気はなかった。

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