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100%独自ネタの地元ニュースであれば読者は喜んでニュースを買う!? ~バフェットから新聞発行人への手紙
バフェットは新聞の救世主となれるか〔PHOTO〕gettyimages

 有力投資会社バークシャー・ハザウェイを通してアメリカの地方紙63紙を一気に買収する著名投資家ウォーレン・バフェット。各紙の発行人・編集長にあてて「地域コミュニティーに根差した新聞の未来は明るい」との手紙を書き、複数の地方紙を追加買収する可能性も示唆した。

 この手紙を読んだ著名インターネット評論家クレイ・シャーキーはブログ記事で「バフェットが新聞というビジネスを理解していないのは明らか」と一刀両断した。

 シャーキーは「手紙の中でバフェットは『広告』や『広告主』という言葉を一度も使っていない」としたうえで、「手紙だけを読んでいると、新聞は企業からの広告料ではなく読者からの購読料で稼いできたかのような錯覚に陥る。新聞業界が苦境に陥ったのは読者離れではなく広告主離れ」と指摘する。

 続いて、「バフェットは慈善事業家であると同時に投資家であろうとしている。新聞経営では公益を追い求めることが利益につながらなくなっていると理解していない証拠だ。新聞が利益を出しつつ公共サービス機能を担えたのは過去の話。バフェットは新聞を救済したいようだが、失敗するだろう」と結論づけている。

 インターネットの本格普及を背景にアメリカの新聞界でリストラの嵐が吹き荒れている。新聞社は伝統的に販売収入よりも広告収入に依存してきたこともあり、2008年の金融危機に伴う景気悪化も大打撃になった。

メアリー・ミーカーが作成した[KPCB Internet Trends 2012]より
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 ここに衝撃的なグラフがある。305年に及ぶ歴史の中で、新聞広告収入が初めてインターネット広告収入に抜かれた事実を見事に示している。このグラフを作成したのは、かつて「インターネットの女王」と呼ばれ、現在は名門ベンチャーキャピタル「クライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズ」のパートナーを務めるメアリー・ミーカーだ。

 そんな「新聞冬の時代」の真っただ中にありながら、世界的な大富豪で慈善事業家としても知られるバフェットは新聞のどこに強みを見いだしているのだろうか。

地域に根差したニュースには競争力がある

 手紙の中で、バフェットは新聞5紙を購読する「新聞中毒」を自称している。中学・高校時代には新聞配達に熱を上げ、累計で50万部も配達。大学時代にも新聞配達を続け、毎週15時間働いた。父親は大学新聞の編集長、母方の祖父は小さな地方紙のオーナーだった。またバフェットは有力紙ワシントン・ポストの取締役も長く務めていた。

 だが、5月24日付の当コラムでも指摘したように、バフェットは単なるノスタルジアで63紙買収に踏み切ったのではない。以下、バークシャー傘下に入る各紙の発行人・編集長あてにバフェットが書いた手紙の要点を紹介しよう。

< 地元ニュースに関心がある人にとって不可欠の新聞になること---これがあなた方の使命です。そのためには地域コミュニティーに関係するあらゆる重要ニュース(特に地元のスポーツニュース)を漏れなく紙面に載せなければなりません。自分や隣人に関係するニュースを読み始め、途中でやめてしまう人なんていないのです >

 全国ニュースや国際ニュースなどと違い、地域に根差したニュースには競争力があるということだ。たとえば記者が地元の小学校へ取材に行き、記事を書いたとしよう。地元紙記者以外は誰も取材しないから、この記事は百パーセント独自ネタだ。しかも、記事中で登場する小学校に自分の子どもが通っているとなれば、読者にとって関心が高いテーマになる。

< インターネットに対する新聞界の初期対応を見直す必要があります。新聞社は印刷メディアとして読者に課金していたにもかかわらず、デジタルメディアとしては無料でニュースを提供していたのです。これはビジネスモデルとしては持続不可能です。デジタルメディアと印刷メディアをうまく融合させる方法を編み出さなければなりません >

 デジタルメディアであっても、100%独自ネタの地元ニュースであれば読者は喜んでニュースを買う---バフェットはこう考えている。逆に言えば、「共通ネタ」を主力にする新聞には未来はないということだ。共通ネタとは、大統領選、アフガン戦争、メジャーリーグ、株式市場関連のニュースをはじめ、放っておいても誰かが必ず報じるニュースのことだ。

< われわれが新聞を買収する際に重視するのは強いコミュニティー意識です。一般論で言えば、人口が大きければ大きいほどコミュニティー意識が薄れる一方、地元住民の居住年数が長ければ長いほどコミュニティー意識が強くなります。われわれにとっては①発行部数が比較的小さい②地元住民の居住年数が長い---の2条件を満たす新聞社が魅力的です >

 言い換えると、大都市で発行される大新聞の未来は厳しいということなのだろう。バークシャーが発行済み株式数の18%以上を保有するワシントン・ポストを見てみよう。同社新聞部門は過去15四半期のうち13四半期で赤字、過去22四半期のうち20四半期で減収になっている。相次ぐリストラで編集局の規模はピーク時の半分だ。

< あなた方はこれから財務上の不安なしに新聞経営に専念できます。どんなときでもバークシャーが資本と流動性を提供するからです。この点では完ぺきです。われわれは基本方針として、将来深刻な経営問題を引き起こすような借り入れを拒絶します。だから、あなた方は自分の意思で自分の運命を決められます。外部(債権者のこと)から指図されることはないのです >

 バークシャーは「超健全財務」を貫いている点で有名だ。現在、400億ドル(3兆円以上)の現預金を手元に積み上げている。対照的に、多数の有力紙を保有するメディア企業トリビューン・カンパニーは多額の借金を抱えて経営破綻している。同社系列の有力紙ロサンゼルス・タイムズは自分の意思で自分の運命を決められず、大規模なリストラを強要されている。

< 新聞を取り巻く環境はかつてないほど厳しくなっています。しかし過去の事例を見ると、新聞社がつぶれるのは①地元に2紙以上の競合紙が存在する②読者が主要な情報源として地元紙に頼らなくなる③地元住民が強いコミュニティー意識を持たなくなる---のうちどれか1つ以上が顕在化した場合です。われわれはこのような問題には直面していません >

 バークシャーは1977年にニューヨーク州バッファローの地元紙バッファロー・ニュースを完全買収している。買収から4年後に競合紙が廃刊になり、以来30年にわたってバッファローは地元にバッファロー・ニュース1紙だけの「ワン・ペーパー・タウン」になっている。バフェットは、同紙のビジネスモデルがほかの地方紙にも適用できると考えたようだ。

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