特集「原発のない夏」
再稼働容認でも高まる「原発のない夏」の緊張

猛暑が続いた10年の夏。今年は電力供給の逼迫が警戒される(写真は東京都千代田区で10年7月21日)

 1970年代の石油危機後に原発を基幹エネルギーに据えてきた我が国が「原発稼働ゼロ」の事態を迎えている。昨年3月の東日本大震災で発生した東京電力福島第1原発の事故による不信感から、定期検査で停止した全ての原発の再稼働がストップしているためだ。

 政府は電力需要が増加する夏場に向け、特に需給が逼迫する関西電力管内で15%の節電を要請、西日本の電力各社に関電への融通を指示するなど対策に躍起だ。この夏を乗り切ることができれば〝脱原発〟への大きなターニングポイントになるが、もし大停電が起きれば社会的混乱は計り知れない。そのためか周辺自治体の首長は再稼働容認に傾いたが、「原発のない夏」はすでに始まっており緊張が高まる。

 東日本大震災当時は全国に54基(現在は福島第1の4基が廃炉で50基)あった原発のうち、37基が運転中だったが、その後次々に定期検査に入り運転を停止。5月5日に最後まで運転していた北海道電力泊原発3号機(北海道泊村)が定期検査に入ったことで、国内の原発の全てが止まる事態となった。

 国内の原発が全て止まるのは70年、当時2基しかなかった原発が検査のため停止して以来42年ぶり。10年度には全電力量の26・4%を賄っていた原子力発電がゼロになったという現実は、日本のエネルギー政策が大きな転換点を迎えたことを象徴している。

 政府は福島第1原発の事故を受け、昨年7月電力各社に対し、原発の安全性を確認するストレステスト(安全評価)の実施を指示。その結果を経済産業省原子力安全・保安院と内閣府原子力安全委員会(班目春樹委員長)が了承することを再稼働の条件にすることを決めた。

 原子力安全委は今年3月、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)のストレステストの1次評価の妥当性を了承した。これを受け野田佳彦首相、藤村修官房長官、枝野幸男経産相、細野豪志原発事故担当相の4者が4月13日に原発の安全性を確認し、関電管内で電力不足が見込まれることから再稼働が必要と判断。福井県、滋賀県、京都府などの周辺自治体に協力要請を始めた。

5月5日に定期検査で停止した北海道電力泊原発3号機(5月1日撮影)

 大飯原発が再稼働できない場合は、四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)などストレステストの1次評価を原子力安全・保安院に提出した他の17の原発の再稼働も一層困難になる見通し。保安院に代わって原発の安全性を審査する原子力規制庁(環境省の外局)の発足も大幅に遅れていることもあって、原発の運転凍結が事実上続く状態となっている。 

「原発のない夏」が迫っているため、政府は5月18日「エネルギー・環境会議」(議長・古川元久国家戦略相)の合同会議を開き、沖縄を除く9電力会社のこの夏の節電目標を正式に決めた。今夏が10年並みの猛暑になった場合、ピーク時の最大需要に対し関西電力は14・9%、九州電力は2・2%、北海道電力は1・9%それぞれ供給不足となる。このため、関電管内で10年夏比15%、九電管内で同10%、北電管内で同7%の節電目標を設定した。期間は7月2日から9月28日までの平日の午前9時から午後8時(8月13~15日を除く)となっている。

 さらに、10年並みの猛暑でも需給に多少余裕のある中部電力、北陸電力、中国電力、四国電力の4社にも同5~7%の節電目標を設定し、周波数が同じ60ヘルツで電気を送りやすい関電、九電に電力融通を行うよう要請した。

 昨年夏は、前年比10%以上の電力不足が見込まれた東電、東北電力管内で15%の電力使用制限令が発動されたが、今年の関電管内では地元の反発に配慮して電力使用制限令の発動を見送った。

 一方、供給が需要を3~4%上回っている東電、東北電管内では、大震災の復興需要が進んでいるため、節電の数値目標は示さないことになった。またフル稼働が続く火力発電所の急な故障に備えるため、関西、九州、四国、北海道の4社に計画停電の準備着手を要請した。古川担当相は「基本的には計画停電の実施は考えていないが、万が一に備えての準備だ」と話している。

 計画停電は昨年東電管内で実施した時の混乱を教訓に、停電時間は1日1回、2時間程度とし、地域ごとのグループ分けやスケジュールをあらかじめ公表し、病院や鉄道、空港といった施設はできるだけ対象外とする。

 計画停電を極力回避するため、急な電力不足のおそれがある時は、政府は「電力需給逼迫警報」を発令し、周辺の電力会社に最大限の電力融通を要請するほか、通信各社による緊急情報配信サービスを使って携帯電話利用者に緊急速報メールを一斉送信して節電を促すことも初めて行う。文面は「停電になる可能性があります。身の回りの電気を消してください」など、切迫した状況を伝えるものになるという。

 また、電力会社に節電実績に応じて料金を割り引くなどの節電促進の取り組みを行うよう要請。これを受けて、関電は5月21日、家庭向け新料金メニューを発表し、同日から受け付けを開始した。

 これは平日の午後1~4時のピーク時間帯の料金を現状の約2倍に引き上げ、それ以外の時間帯を割安に設定した内容で、実施期間は7月1日から9月30日まで。これまで一般家庭の基本的な電力料金は時間帯に関係なく1キロワット時当たり19・05~25・55円だったが、新プランでは午後1~4時は1キロワット時当たり52・82円にする一方、夜間は8・19円と安くした。関電の試算では標準家庭がピーク時の電力使用量の1割を夜間にずらすと1カ月の電気料金(8426円)が45円安くなるという。

 経産省が公表した家庭用の節電メニューでは▽お湯は電気ポットでなくコンロでわかす▽ノートパソコンは日中コンセントからプラグを抜いて充電を利用する▽昼間は掃除機ではなくモップやほうきを使う▽冷蔵庫は設定温度を「強」から「中」にし、食品を詰め込まない――などを挙げた。

 エアコンの設定温度は28度にするよう求めているが、15%の節電目標が設けられた関電管内ではさらに「2部屋でエアコンを利用している場合は1部屋に減らして使用する」が加わり、逼迫の度合いにより差を付けた。

 この節電の夏に産業界は「できる限り協力する」(経団連の米倉弘昌会長)姿勢だが、15%の節電目標が設けられた関西では需給に余裕のある他の地域へ生産拠点を移す動きが出始めている。

 日立造船が海底トンネルを掘る機械などを生産する堺工場の生産を広島県や熊本県の工場で代替生産する検討を始めた。東洋紡が大津市の研究所の研究員600人を愛知県に移すことを検討している。また、三菱自動車は京都工場の自家発電設備を7月から稼働させる。

 10%の節電が求められた九州電力管内でも、北九州市の産業用ロボット大手、安川電機が工場の消費電力をリアルタイムで把握するシステムを導入、設定したピークに近づくと生産を調整して電力消費を抑えるなど、各企業とも対応に躍起になっている。

 仮に節電、電力融通などの対応でこの夏を乗り切ることができれば、政府が決めた原発の再稼働の必要性を疑問視する声も高まりそうだ。福島第1原発の事故で今なお先祖伝来の土地に戻れない福島県民が10万人近くもいる状況も考慮すれば、脱原発の動きが早まることも予想される。

「全量再処理」核燃サイクルの破綻
政府の中長期エネルギー戦略転換へ

 原発の稼働が再開されても、増え続ける使用済み核燃料の処理問題が大きく横たわる。福島の事故以前から行き詰まっていた「核燃料サイクル」はますます破綻の様相を濃くしている。

 原発から出る使用済み核燃料を再利用する「核燃料サイクル」のあり方を検討してきた原子力委員会の専門部会「核燃料サイクル技術等検討小委員会」(座長、鈴木達治郞・原子力委員長代理)がこのほど、処理方法ごとのコストや克服すべき課題などについて総合評価した結果をまとめた。

 従来の国策「全量再処理」が必ずしも有利でないことを示す内容で、原子力政策の転換につながる可能性がある。政府が今夏まとめるエネルギー・環境政策の中長期戦略にどう反映されるか注目される。

 使用済み核燃料から抽出したプルトニウムを原発で再利用し、将来的には使った以上のプルトニウムを生み出す高速増殖炉を実現させる。それが、エネルギー資源の少ない我が国が1956年の第1回原子力開発利用長期計画(長計)以来、一貫して保持し続けてきた全量再処理路線だ。

 だが現実を見ると、高速増殖原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)は巨額投資にもかかわらず一向に実用化のめどが立たず、日本原燃六ケ所再処理工場(青森県六ケ所村)はガラス溶融炉の相次ぐトラブルで少なくとも2年以上の完成延期を余儀なくされている。経営的にも技術的にも核燃料サイクルは破綻しているとの指摘は、まさにこうした実態を根拠にしている。

 昨年3月の福島第1原発事故を受け、核燃料サイクル事業にこれまで以上に厳しい視線が注がれる中で小委の議論は進められた。

 評価対象となった処理方法は、使用済み核燃料を▽全量再処理▽全量直接処分▽両者を併用――する三つの選択肢。それぞれの選択肢について、将来の原発依存度を(1)30年に35%(2)同20%(3)同15%(4)20年に0%――とする4シナリオを想定し、総事業費や使用済み核燃料貯蔵量、核不拡散、政策実現の課題など7項目で評価・比較を行った。

 一番の焦点となったのはコスト(経済性)だ。使用済み核燃料をすべて地中に埋却する全量直接処分の場合、脱原発シナリオの(4)で最安の8・1兆円。原発を維持もしくは徐々に減らす(1)~(3)でも10・9兆~14・1兆円で済むと試算された。

 これに対し、全量再処理は15・4兆~18兆円、併用は15・4兆~17兆円かかり、全量直接処分が最も経済的に有利となった。また、国際的に保有・管理が厳重に制限されている核分裂性プルトニウムの発生量も、全量直接処分なら最も少なく抑えられると評価された。

 コストが最も高く経済的には不利とされた全量再処理は、ウラン資源節約や高レベル放射性廃棄物の処分面積が最も小さくできることが利点とされた。他方、併用は将来どのような政策でも選び直すことができる「政策の柔軟性」の面で最も優れていると評価された。

 こうした評価結果を見る限り、核燃料サイクルの停滞やひっ迫した財政事情に照らせば、再処理事業を中止して全量直接処分に舵を切るための判断材料として十分のように思える。にもかかわらず、小委の議論は「併用」つまり、「当面の再処理維持」に傾いた。

 委員6人のうち、全量直接処分を支持したのは脱原発を訴えるNPO原子力資料情報室の伴英幸共同代表1人だけ。その他の4人は併用を最も支持し、残る1人(松村敏弘・東大教授)は再処理工場の稼働状況やプルサーマル発電を行う原子炉の利用計画などを見極めるまで政策決定を2~5年先送りする「留保」を推した。

 核燃料サイクル政策を中心的立場で推進してきた原子力委員会の専門部会で、高速増殖炉や第2再処理工場の建設など実現性の乏しい計画を前提とする全量再処理への支持を声高に主張する委員が1人もいなかったのは特筆すべきだが、今回、併用支持に回った田中知・東大教授や山名元・京大教授らサイクル推進派委員からは「高速増殖炉は将来の有力な選択肢」「全量再処理に近い併用が最も良い」といった意見が相次いだ。

 実際に直接処分を行うかどうかの決定を将来に先送りする「併用」という選択肢に、サイクル推進派が将来の全量再処理実現の夢を託していることは明らかで、従来路線への強いこだわりが見える。

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