官々愕々
「成長のための改革」こそが必要だ

 社会保障と税の一体改革と銘打った野田政権の増税関連法案の審議がようやく始まった。「一体改革」というのだから、日本経済再生のための全体像が議論されるのか、と思ったら、実はこれはとんでもない錯覚だ。

 そもそも、経済の根幹は、まず人々が働いて「稼ぐ」ことだ。その後に、税金を取り、社会保険料を徴収して、その集めたものを社会保障などの支出として分配するという順序で経済システムは回っている。今回の「一体改革」はその後半部分だけが対象で、しかも最低保障年金などの根本改革は来年に先送りだから、「部分の中の『超』部分改革」に過ぎない。結局、議論の中心は消費税増税だ。

 これに対し「増税の前にやるべきことがある」という批判が高まるのは当然だ。公務員の定員・給与削減、議員定数・歳費削減といった歳出カットの政策が要求される。これらも重要だが、しかし、取った税金をどう使うかという部分に過ぎない。これで経済全体がすぐに良くなる訳ではない。

 消費増税が日本経済再生につながると野田総理は本気で信じているようだが、とんでもない経済音痴としか言いようがない。

 ギリシャは増税して破綻した。マーケットは借金の大きさと増税だけを見るのではない。今、日本について最も心配されているのは「増税できるか」ではない。ギリシャ同様、「稼げるのか?」という懸念だ。日本には世界最高の技術、良質な労働力、民間部門の潤沢な資金、近隣に広がるアジアの巨大成長市場という極めて恵まれた条件があるのに、である。その原因は、「成長のための改革」を実行できない政治への不信である。

 典型例が、成長分野というと必ず出て来る農業、医療、再生可能エネルギー。資本主義、自由主義の国日本が掲げる3大成長分野でありながら、そこで企業は自由に活動できないという現状。まるで笑い話だ。

 何故その改革ができないのか。これらの分野には強力な既得権グループと族議員と官僚がいる。自民党はこれらと一心同体だったから改革できなかった。国民は「しがらみがなく、クリーンな」民主党に期待したが、それも幻想に終わった。実は野党で権力がないから誰もすり寄って来なかっただけで、与党になった途端に既得権グループが票とカネを持ってすり寄って来たら、あっという間に取りこまれ、自民党と同じ「しがらみ」だらけの政党になった。そして、その裏には相変わらず既得権の守護神、官僚達がいる。

 農業分野には減反廃止、戸別所得補償の抜本改革、農協の独禁法適用除外廃止、株式会社参入の自由化、農地法の抜本改革などが手つかずで横たわっている。医療では株式会社の参入、混合診療の解禁などがいつも高い壁に阻まれて来た。電力でも、販売自由化の家庭向けへの拡大や発送電分離などが検討課題に上ってはいるが、決まったのは税金による東京電力の実質国有化=経産省のものにすることだけ。脱原発は風前の灯だ。

 これらの改革を実行できるかどうか。それが日本再生への「踏み絵」になる。大阪維新の会の「維新八策」にある「既得権益と闘う成長戦略」に、これらの策が盛り込まれるのか。それについて行ける政治勢力はどこか。政局は政策で動いてほしいものである。

「週刊現代」2012年6月9日号より

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