“ジャパン・アズ・ナンバーワン”に熱視線! 世界の最先端をいく日本の人口高齢化を反面教師にするスイス
WDAフォーラム会場風景

 「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と日本経済がもてはやされた1980年代後半には、日本の実情を知ろうと多くの学者や経営者、政治家が日本を訪れたり、日本の学者を招いたりしたものだ。

 あれから20年余り。世界の日本に対する関心は大きく低下し、「日本パッシング(日本素通り)」とか、「日本ナッシング(日本無視)」といった言葉が生まれ、その状態が常態化しつつある。日本がテーマの国際会議が開かれる頻度も減り、毎年スイスで開かれる「ダボス会議」などでも日本関連のセッションはほとんど無くなった。

 そんな中で、珍しいシンポジウムが5月24日、25日の2日間、スイスのチューリヒで開かれた。スイスのサンクト・ガレン大学の傘下にある「世界人口統計高齢化問題(WDA)フォーラム」が主宰した「専門家シンポジウム」である。日本側の参加者をスイス側が招待する熱の入れようだった。

 日本からは高齢化に伴う社会変革などに取り組む東京大学高齢社会総合研究機構の秋山弘子・特任教授や、政府の経済財政諮問会議の議員を務めた八代尚宏・国際基督教大学客員教授、世界保健機関(WHO)の勤務経験を持つ渋谷健司・東京大学教授など15人ほどが参加した。社会学から経済学、保健政策、医療技術まで幅広く専門家に声がかかった。

 一方のスイス側からは学者を中心に、国会議員や政府の移民政策担当者、保険会社など経営トップが20人近く集まった。基本的に基礎的な情報交換はスキップして、専門的な意見交換に中心を置くシンポジウムという位置付けだった。

「日本の高齢化はスイスの5年~10年先を歩んでいる。日本経済とスイス経済が置かれた状況は非常似ている点が多く、お互いに学ぶべき点が多いはずだ」

 シンポジウムを主宰したWDAフォーラムのハンス・グロート会長は、スイスがシンポジウム開催に乗り出した狙いを語る。つまり、先進国の中で最も早いペースで人口構造の高齢化を迎えている日本に多くを学びたい、ということなのだ。ジャパン・アズ・ナンバーワンといっても成功の秘訣というわけではなく、最も試練に直面しているという意味でのナンバーワンに学ぼうというわけだ。

移民なしに年金制度の維持は不可能

WDAフォーラムのグロート会長(左から2番目)と村田特任教授(左)

 シンポジウムでは、労働市場改革、医療健康分野での技術革新、社会保障制度、政府と民間の役割などが議論の中心だった。

 中でも焦点になったのが移民政策。スイスには第2次世界大戦後だけでも200万人が移民として移住。現在も800万人の人口(居住者)の25%を外国人が占める。これにはすでにスイス国籍を取得した世代は含まれておらず、現在のスイス居住者の過半数が移民をルーツに持つとの見方もある。

 スイス政府で移民政策を長年担当したエドワルド・ジェニーサ・スイス開発協力庁(SDC)上級顧問も「スイスへの移民はプロテスタントの時計職人がフランスから亡命した17世紀から続いており、国民の多くのルーツが海外にあるという見方はあながち間違っていない」と話す。

 そのスイスへの移民も質的に大きく変化しているという。ジェニーサ氏によれば、1990年代半ばまでは移民ののうち医師や経営者、特殊技能者といった、いわゆる「高技能人材」は20%に過ぎなかったが、今ではこの比率が80%になっている、という。ゴミ処理や建築現場、サービス産業といった「低技能職場」での人材不足を補うという当初の移民政策から、高技能人材の招致という政策に急速に変わったことを示している。

 最近、中でも目立つのがドイツからの人材流入だという。ユーロ統合後にスイスが国境の移動を自由化する「シェンゲン条約」に加わったことにより、移住が簡単になった。また、ドイツに比べて所得税が大幅に低いことや、金融危機によるユーロ通貨への不信などが、スイス・フランという独自通貨を持ち、EUに加盟していないスイスへの人材流入を加速しているという。

 日本側のコーディネーターを務めた東北大学加齢医学研究所の村田裕之・特任教授は、日本で移民受け入れの議論が進んでいない点を説明。「公用語が周辺国の国語と共通しているスイスに比べ、海に囲まれて独自言語を話している日本は難しい」と語っていた。

 高齢化に伴う年金財政や健康保険財政の危機についても議論が行われた。スイス側からは移民なしに年金制度を維持するのは不可能という分析が示されたが、一方で外国人比率の急速な高まりによって、これ以上の移民受け入れの制限を求める国民の声も強くなっている、という。

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