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現代ビジネス×クオンタム流経営塾特別対談 猪瀬直樹×出井伸之(上)
「東京と大阪の『薩長同盟』で霞ヶ関幕府に攻め上る、という構図ができた」

猪瀬直樹さん(東京都副知事)と出井伸之さん(元ソニーグループCEO/現クオンタムリープ代表取締役)

出井: いま政界でもっとも注目されているのは橋下徹大阪府知事ですね。僕は彼が「大阪都構想」を掲げたことは、なにより支持しています。というのは、日本ではとにかく東京に一極集中していて、それを変えることができなかった。選挙のときに「大阪都構想」だけをフォーカスして争点にしたというのが、すごく戦略的に良かったんじゃないですか。

猪瀬: 大阪府知事だった人が大阪市長選に出る、ということが新機軸でした。大阪市長が交替する時期をねらって府知事が市長選に打って出るという発想がね。府と市を一体化して自分がその市長になる、というねらいで自陣営から府知事をもう一人作るという仕組み、これは新機軸でした。

出井: たしかにそうです。彼がやりたいのは、おそらく地方分権を一歩進めるという大きなことですからね。そういう意味では、やり方は違うけれど、石原(慎太郎都知事)さんと猪瀬さんが東京でやってこられたようなことを、もう少し制度的にやっろうとしているということでしょうね。東京と大阪の二つの試みがそろうと、すごくおもしろいことが起こるんじゃないかと僕は期待しているんです。その辺はどうですか。

猪瀬: 実はね、去年の府知事選挙のとき、僕は途中で大阪に応援に行っていますし、最後の投票日前日には石原慎太郎も応援に行っているんです。それは、「東京も応援しているんだよ」ということを見せる必要があったからなんです。そして、東の横綱の東京と西の横綱の大阪が立ち上がるという、薩長同盟じゃないけれど、そういう形でしか今は国の形を変えられないんですよ。

出井: そう思いますね。私は先日猪瀬さんに出ていただいた「アジア・イノベーション・フォーラム」。あれは東日本を活性化しようということで、東京を含む東北・北海道ということで東日本を考えたんです。要するに日本という括りは大きすぎるんですよね。

 西日本の考え方と東京の考え方って全然違うでしょうし、かといって、道州制で分けてしまうと何だかわけがわからなくなってしまう。東日本に対抗するアイディアが西日本か出てきて、それぞれ相呼応して何かをやるというのはすごく良い形だと思います。

日本の首相は「社外取締役」

猪瀬: 要はね、霞ヶ関って幕府なんですよ。江戸末期の情勢でいうと、中央の幕府を倒すためには、地方の雄藩である薩摩と長州が手を結ぶしかなかったんですね。そういう意味で、橋下さんが大阪で立つことで、これまでは薩摩しかなかった状況に新たに長州ができたということになるわけです。東の東京と西の大阪から霞ヶ関に攻め上る、という構図ができてきた。

 今は、政策のほとんどが霞ヶ関で決められているんですよ。政治主導といっても、日本の首相って結局「社外取締役」くらいの位置づけなんですね。だから実際の執行権は霞ヶ関にあるんです。

 アメリカの場合は、ある意味で大統領というのは「王様」なんですね。4年に一度大統領選という内乱を擬した祝祭空間を作っていて、つまりアメリカは南北戦争以来ずっと内乱をくり返しているわけなんですね。そして、そこで1年間内乱を擬した儀式をやって王様を選ぶから、アメリカの大統領には権威も実質的なリーダーシップもあるんですよ。日本の場合、それがない。

出井: 基本的には首相が主導しようとしても、閣僚全員のコンセンサスがなければ何も進められない。そして、首相の周りにいる方って、国政の全体像を考えている方は一人もいない。全部省益の代表者ですよね。外務大臣とか財務大臣、経産大臣とか、そういう省益の代表者が周りにいる状況では、何も決められない。

猪瀬: 大臣も実質的に名前だけの存在ですね。結局、決めるのは事務次官だからね。

出井: 今まで、といってもずいぶん昔で20年くらい前の話なんですが、日本は成長期にあったわけでしょう。そのときまでは、あんまり政府が戦略を考えなくてもよかったし、官僚もどんどん肥大化していてもよかったんです。成長がすべての問題を覆い隠していたんですが、今のような成熟期になってくると、もう今までのやり方では全然進まないですね。

猪瀬: おっしゃる通りですね。何か、閉塞状況を打ち破る必要はあるんだけれど、たとえば民主党政権に政権交代したら閉塞状況が打破できるんじゃないかという幻想があったことは事実ですよ。

出井: 私なんかもずいぶん、自民党政権が民主党政権に代わるということで期待しましたし、そういうふうに思っていた方がたくさんいたと思うんですね。

猪瀬: それなのに、なお悪くなっちゃった。そこまではみんな考えていなかったと思いますね。まったく素人ですからね、何にもできないなんて思いもしなかったし、少しはできるだろうと思っていた。

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