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緊急レポート 首都直下型地震で東京湾は大炎上する!
フライデー
JX日鉱日石エネルギー市川油槽所
左は「Google Maps」の震災前の画像。右は濱田教授提供の震災後の画像。同社によれば、護岸にも被害が出たため、地盤改良工事を行っているという。行政の補助はないので液状化対策は企業任せとなっているのが現状で、未対策のコンビナートも多い
JX日鉱日石エネルギー船橋油槽所
上の写真と同じく、左が震災前で、右は震災後。液状化対策の指導について、千葉県消防課は、「護岸や敷地内の道路に関して液状化対策を行うようにお願いしています。ただし、強制力はありません」と話した

 3・11で石油コンビナート内が液状化していた事実を航空写真が捉えていた!大地震が襲えば液状化と津波で湾岸に5000基以上あるタンクが倒壊し、重油が流出、大爆発が起こり火の海と化す—起こりうる現実を専門家が警告する

 上に掲載した航空写真は、JX日鉱日石エネルギーの市川油槽所(千葉県市川市)を東日本大震災(以下、震災)の前後で比較したものだ。青い円で囲った部分に注目してほしい。地面が白っぽく変色していることが分かるだろう。これは、液状化によって大量の砂が吹き出した「噴砂」の跡だ。燃料タンクの近くで大規模な液状化が起きていた証拠である。

 この写真は、国土交通省・関東地方整備局の「臨海部の地震被災影響検討委員会」の座長を務めた、早稲田大学理工学術院創造理工学部社会環境工学科の濱田政則教授から提供されたものだ。震災によって東京湾を取り囲んでいる石油コンビナートが受けた被害状況の実態は、「液状化が発生しても、配管が破損するなど施設に影響がなければ、行政への報告義務はない」(神奈川県工業保安課)こともあり、いまだに明らかになっていない部分が多い。そこで、濱田教授は、独自に空撮による調査を行ったのだ。

「液状化という現象は、'64年の新潟地震(M7・5)で初めて認識されました。それ以後は液状化対策が進んでいますが、東京湾の埋め立て地は歴史が古く、岸壁や護岸のうち約30%が'65年以前に作られたものです。当然、液状化に耐えられる構造にはなっていません。問題は、そんな古い埋め立て地に重油などの危険物、LPG(液化石油ガス)、LNG(液化天然ガス)などの高圧ガスタンクが5000基以上も林立していることです。震災では、スロッシング(注)による油漏れが起きた施設もありましたが、これは大規模火災となってもおかしくない事故でした。現に'03年の十勝沖地震ではスロッシングがもとでコンビナートの火災が起きています」

(注)スロッシングとは、地震など外部からの振動によって容器内の液体が揺動すること。石油タンクには浮き屋根式と球形式があり、スロッシングによる火災は浮き屋根式で起こりやすいとされる。しかし、コスモ石油の火災では、球形式のタンクが倒壊、炎上した
液状化の範囲は「東北地方太平洋沖地震による関東地方の地盤液状化現象の実態解明」(国土交通省関東地方整備局、公益社団法人地盤工学会)を参考にした。葛南港湾では最大2.4mの津波が観測された
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 上に掲載した図1は、震災直後に東京湾周辺で発生した事故のうち、本誌が確認できたものだ。コスモ石油千葉製油所で発生した火災については記憶している人も多いだろう。しかし、図を見ると、コスモ石油から飛び火したと考えられる丸善石油化学千葉工場、チッソ石油化学五井製造所の他、杉田製線市川工場でも火災が発生。濱田教授が指摘するように、エム・シー・ターミナル川崎事業所と東亜石油扇町工場ではスロッシングを原因とする事故も起きている。これらの事故は東京湾をぐるりと一周囲んでおり、震災直後の東京湾はまさに炎上の危機にあったのだ。

東京湾は時限爆弾だ

 東京湾北部を震源とする直下型地震が起きた場合、3・11の比ではないことは明らかだ。より大規模な液状化によって、タンクが沈み込み、倒壊する可能性もある。さらに津波も押し寄せる。震災の時ですら、東京都江東区~千葉県浦安市の沿岸部では大規模な液状化が発生し、1~2m強の津波が襲った。神奈川県と千葉県によれば、直下型地震によって川崎市で最大3・7m、千葉市中央区で2・9m、木更津で3mの津波が想定されている。液状化で倒壊したタンクを津波が襲うような事態になれば、図2(次ページ)のように広範囲に油が流出すると見られている。濱田教授が警告する。

「東京湾にはスロッシングの起きやすい浮き屋根式タンクが600基あります。M7規模の首都直下型地震が発生すれば、その約1割で油漏れが発生し、海上火災が起きると私は想定しています」

 震災では、宮城県の気仙沼湾で、津波が襲った後、流出した重油や軽油が炎上して2日間燃え続け、約30万m2を焼いた。東京湾に大量の油が流出した状況で、コスモ石油の爆発火災のような事故が起これば、湾内は、まさに〝火の海〟と化すだろう。脆いコンビナートを抱えた東京湾は、地震で湾全体が炎に包まれかねない〝時限爆弾〟なのである。

 たとえ火災が起きなくても、電力不足という危機が生じる。東京電力によれば、7月に供給が見込まれている電力5786万kWのうち約50%にあたる2685万kWが、東京湾にある12基の火力発電所(位置は図2を参照)でまかなわれることになるという。しかし、油の流出事故が起これば、この発電が止まる可能性がある。「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」に基づいて作成された「東京湾排出油等防除計画」で、海上保安庁は、油が流出した場合の船舶の航行を制限するとしているのだ。濱田教授が続ける。

「油が海上に大量流出すれば、東京湾での船の航行は禁止されます。仮に京浜臨海地区から油が1万2000kl流出した場合、航路は2ヵ月間も封鎖される可能性があります。油が混じった海水を冷却水として使用することはできないので、火力発電所も稼働できなくなるでしょう。つまり、被災直後に電力不足となり、救護・医療活動に2ヵ月もの間支障が出てしまうのです。我が国の存亡に関わる大問題です」

 東京湾炎上を避けるために一刻も早い対策が求められる。

「フライデー」2012年6月1日号より

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