フィアットとの業務提携を発表したマツダ。低迷する業績や株価だけでは計かれない「裏の競争力」とは
スカイアクティブ技術によって生まれた高効率トランスミッション〔PHOTO〕gettyimages

 マツダは5月23日、イタリアのフィアットと協業を開始することで合意したと発表した。オープン2シーターの次期「ロードスター」の骨格をフィアット傘下のアルファロメオに提供するほか、マツダ本社工場でアルファロメオ車を生産する。欧州での協業も検討する。

 この提携自体、現状では資本提携ではなく、対象車種もスポーツカーであるため、大きな量的効果も期待できないかもしれないが、技術や商品での他社とのアライアンスはマツダが浮上を狙う経営戦略の一つであり、今後、自動車業界再編の台風の目になる可能性がある。

 マツダの経営は現在、厳しい状況にある。2012年3月期まで4期連続の最終赤字。配当原資が枯渇して3期連続の無配に陥っており、5月23日の株価終値も108円で低迷する。今年3月に増資に踏み切ったが、その際の公募価格(124円)をも下回っており、増資に応じた株主の中には不満もあるだろう。5月23日付日本経済新聞の投資財務面のインタビュー記事でマツダの尾崎清副社長は「なるべく早い時期に復配したい」と語っている。

 マツダは財務的には非常に厳しい状況に置かれており、その大きな要因は円高である。2011年3月期との比較で営業利益が625億円減少したが、そのうち376億円分が為替の影響によるものである。国内生産比率の高いマツダは円高の影響を被りやすいからだ。

 では、マツダのもの造り能力が劣っているかと言えば、決してそうではない。筆者は昨年秋から、マツダの工場を訪問したり、役員やエンジニアらにインタビューしたりして取材を続けてきたが、時代の変化に合わせた設計から製造までを含めた一連のエンジニアバリューチェーンの改革(設計革命)では、日本の自動車メーカーの中では抜きん出ていると思う。これは一般には意外と知られていない。

 会社評価の大きな尺度である決算が悪いので、「赤字メーカーの取り組みなんて株式市場では何の説得力もない」と評される傾向にある。しかし、製造業の研究者がしばしば指摘しているように、企業には表の競争力と裏の競争力がある。「表」とは目に見えるもので、決算の数値やそれにつながるシェアなどが挙げられる。今回のような提携戦略を構築して力も「表」の力に入るだろう。

 一方、「裏」とは外部からは簡単には見えづらい。従業員の意欲や生産性の改善、加えて最近では、本コラムでも度々触れてきた多様な価値観に対応する「価値品質」造りのための設計革命力などが挙げられる。

 表と裏の競争力はつながっているが、裏の競争力向上が決算に好影響をもたらすには時間もかかる。表と裏の競争力をつなぎ、早く決算をよくする力が経営力であり、マツダの経営者に課せられた大きな課題だと思う。フィアットとの提携も業績浮上の一助としたいはずだ。

 今回は、世間であまり知られていない、マツダの「裏」の競争力について述べてみたい。

常識を否定していく時代が来ている

 マツダで思い浮かぶのは、サッカーの長友祐都選手を起用した「スカイアクティブ・テクノロジー」のCMである。そのエンジンがハイブリッド技術を用いずに内燃機関だけでハイブリッド並みに高い燃費効率を持つことはよく知られている。しかし、その誕生のプロセスにマツダの裏の力がある。一言でいえば、常識を否定することから始まった。

「ガソリンなど燃料のもつエネルギーの30%以上を使うのは無理」という「常識」が業界にはあったが、それを排除することから設計が始まった。ピストンの圧縮比率は「11」という値が常識的な線で、それを超えてしまうと、ピストンが焼切れると言われてきたが、エンジニアは実験データから見て、その「常識」を疑った。コンピューター技術などを駆使して噴射の仕方を変えれば、圧縮比率が「14」にできることが分かりつつあった。

 2006年ごろから挑戦する機運が生まれ、約5年の歳月を経て11年に「スカイアクティブ」という新技術が生まれた。ハイブリッド車よりも安価なエコカーという新たな選択肢を消費者にもたらしたのだ。

 こうしたエンジニアの意欲やタブーへの挑戦は「裏」の競争力と言えるだろう。

 もうひとつ外部から見えない革新では、この「スカイアクティブ」の開発で、これまではエンジンごとに燃焼のし方が違っていたのを、すべてのエンジンで統一化した点が挙げられる。これにより、制御ソフトウエアの開発工数も大幅に削減された。非常に地味な改革だが、燃焼コンセプトを統一化させることで、排気量や仕向け地が変わってもクリーンで効率的な燃焼領域がどこか個別に探さなくて済むようになり、開発のスピードが向上し、コストも下がった。開発の度に実験をして最適燃焼の領域を探さなくてもすむからだ。

 そのエンジニアは筆者にこう説明した。

「意味と価値を高める開発が重要です。そうすれば、規模は小さい会社でも存在感が出てきます。韓国メーカーはスピードと量を求めていますが、同じ土俵で戦っていては勝ち目がありません」

 規模は小さくても社会的に意味があるものを開発し、それを消費者が快く受け入れてくれれば生き残ることができるという意味である。意味と価値を高めるために、常識を否定していく時代が来ているのであろう。

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