[レスリング]
米満達弘(自衛隊体育学校)<Vol.1>「金メダルへの銀メダル」

 悔しい銀メダルだった。

 2011年9月にトルコ・イスタンブールで開催されたレスリングの世界選手権。男子フリースタイル66キロ級に出場した米満達弘は目標を「優勝」に定めていた。五輪で20個の金メダルを獲得したお家芸も今は昔。フリースタイルの日本男子勢は世界選手権で30年間、頂点に立ったことがなかった。

「世界チャンピオンという響きもいいし、日本レスリング界で30年ぶりというのは素晴らしいこと。歴史をつくるつもりで臨みました」

 過去2度の世界選手権は銅メダルと初戦敗退。前回大会は直前にコンディションを落として失敗しただけに、今回は万全の体調でトルコへ乗り込んだ。五輪前年の世界選手権はその出場枠を争う戦いでもある。5位以内に入ることがその条件だった。初戦の2回戦、3回戦と米満は危なげなく勝ち上がり、ベスト4、すなわち五輪出場枠の確保を懸けて準々決勝に進出した。

誰にもできないタックル

 この準々決勝を米満は「最大のヤマ」と見ていた。なぜならトーナメント表を見る限り、アゼルバイジャンのヤブライル・ハサノフが勝ち上がってくることが予想されたからだ。ハサノフは2年連続で欧州選手権とゴールデングランプリ決勝大会でチャンピオンになっている。「66キロ級の中でも一番強い」と米満がみていた強敵をいかに倒すか。歴史をつくるには越えなくてはならない関門だった。

 試合は米満が得意のタックルでポイントを奪うものの、危ないシーンもあった。飛び込んだところを逆にハサノフに返され、ポイントを失ったのだ。
「予想外でしたね。ちょっと焦りました。“やっぱ、強いな”と思いましたね(笑)」

 米満は「自分のタックルは絶対に他の選手にはできない」と語るほど、タックルには大きな自信を持っている。その理由は彼の身体的特性に依る。168センチの身長ながら、リーチが異様に長いのだ。

 しかも体は柔らかくてバネがある。相手が少しでもスキを見せれば、低い姿勢をキープしつつ、長い腕が足や腰にグイッと伸びてくる。「タックルのタイミングが違って、やりにくい」。対戦した選手たちが一様に、そんな感想を漏らすほどだ。