進化するユーチューブは"世界のお茶の間"を目指す
ファスト・カンパニー USA
〔PHOTO〕gettyimage

 グーグルが買収した当初は、「高すぎる買い物」と評された動画サイトは、着実に収益増を達成しつつある。

 カリフォルニア州サンブルノにあるユーチューブの広々としたオフィスの中を、同社のCEOサラー・カマンガー(34)が案内してくれた。 ネイビーブルーのフード付きセーターとジーンズに身を包み、腰の辺りにノートパソコンを抱えた姿は、まるで名もないプログラマーのようだ。

 ユーチューブの創設者が残していった薄茶色のソファーにぎこちなく腰かけたカマンガーは緊張しているようだった。だが、お気に入りのチャンネルを見せるときには、打ち解けた様子になった。「この動画は、なかなか面白いんです。見たことありますか?」と話す様子はティーンエイジャーのようだ。

 使い古された愛用のレノボを膝にのせて、「ポールを使ったインドの体操競技なんです」と説明する。他にもブルーグラスのギター奏者ドク・ワトソンの古い映像や、ファンたちが製作した映画『ロード・オブ・ザ・リング』の前篇『ゴラムを追う旅』などを見せてくれた。後者は、なんとピーター・ジャクソン監督本人の作品と間違えられたという。

 サイトの誕生当初から、カマンガーはユーチューブが将来大きく成長する可能性を秘めていると期待していた。ほとんど知られていないが、彼は2006年にグーグルがユーチューブを16億ドルで買収した際の立て役者だったのだ。それは創業者たちがユーチューブのドメイン名を登録してからわずか20ヵ月以内のことだった。

 当時、グーグルで最年少の副社長だったカマンガーは、「グーグル・ビデオ」をふくむ「グーグル・アップス」を担当していた。

買収は“愚策"だったのか?

「グーグル・ビデオの開発が大急ぎで進められていましたが、ユーチューブに追いつける可能性は低いと気づいたんです」

 カマンガーは、包括的な動画サービスにこだわるグーグルビデオより、活気のあるコミュニティを強化し、さらに大きく育てることを目指したユーチューブ創業者たちのほうが賢明だと感じたのだ。 著作権侵害の問題やあいまいなビジネスモデルを差し引いても、「ユーチューブは極めて広大な宇宙を旅することができる宇宙船だと思いました。どうしても欲しくなったんです」とカマンガーは語る。

 ビジネスの専門家や物知り顔の評論家は、ユーチューブが莫大な買収額に見合う価値を生み出す可能性に懐疑的で、この買収は一般に「グーグルの愚策」と嘲笑されてきた。動画がアップロードされるたびに運営コストが上昇して収益を圧迫するばかりで、「ビジネス・インサイダー」電子版では「スケートボードを乗りこなす犬や口パクに興じる大学生、政治評論やポルノの嵐がテクニカラーで吹き荒れている」と揶揄されるほどだった。

 だが、カマンガーが08年秋から創設者とともにサイトの運営を担うようになって以来、ユーチューブは、世界最大のプラットフォームとして勢いを増しており、新しい収益モデルを次々に試している。

 たとえば企業などのための「ブランドチャンネル(公式チャンネル)」の開設や、広告動画が実際に視聴された場合のみに課金される広告サービス、従来のハリウッド的なコンテンツに頼らずに多くの視聴者を獲得している新しい世代のプロデューサーの育成、テレビをはじめ、あらゆる画面でユーチューブを提供する試みなどだ。

 こうした試みは収益増につながっている。グーグルの収支報告はユーチューブからの収益額を明らかにしていないが、同社に詳しいある金融アナリストによると、08年には推定1億~2・5億ドルだったのが、10年には推定10億ドル弱に増加したという。

 カマンガーは、サイトの巨大な規模と厚みが生むチャンスをうまくとらえようとしている。「ケーブルテレビでもカイトサーフィンやスキー、ピアノの専門チャンネルはありません(この3つが彼の“本格的な"趣味なのだ)。テクノロジーとビジネスモデルの限界があるため、この手のコンテンツは従来のメディアでは放送できないのです。

 ユーチューブが素晴らしいのは、コンテンツ制作者が視聴者を得るための新しい手段を提供しているということです。私が興味を持っているようなトピックのコンテンツにも、放送の場ができるんです」

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