それでもなおギリシャの「ユーロ離脱」はあり得ない理由。「緊縮は嫌だがユーロを手放すのも嫌」がギリシャ人の本音だ!
仮に国が新通貨に切り替えたとしてもユーロがそのまま流通する?〔PHOTO〕gettyimages

「ギリシャのユーロ離脱に備えよ」「ギリシャが離脱すれば世界経済は大混乱」

 そんな論調の記事が増えている。米国や英国のメディアでも「ギリシャの離脱は時間の問題」といった見方が広がっている。果たして、ギリシャは本当に、ユーロ圏から出て行くのだろうか。

 5月6日に行われたギリシャの議会選挙で、EU(欧州連合)と合意していた財政緊縮策を白紙に戻すと主張した「急進左派連合」が第2党に躍進するなど、反緊縮策勢力が一気に議席を増やした。パプリアス大統領が乗り出して連立協議を繰り返したが結局決裂。大統領は再度議会を解散し、6月17日に再選挙を行うこととなった。この再選挙の結果次第では、EUによるギリシャ支援の枠組みが崩壊することになりかねず、ユーロ圏に留まるか、離脱するかを選択する選挙になる、と言われている。

 ギリシャ国民はここに至っても緊縮策の受け入れに反対し、ユーロを放棄するところまで突き進むのだろうか。

 現実にはユーロを放棄することにはならないだろう。日本の新聞などでは、ギリシャがユーロを離脱すれば新ドラクマなどの独自通貨を発行すると事も無げに書いている。だが、現実はそんな簡単にギリシャ国民がユーロを手放すことはあり得ない。

 ギリシャ国民は今、財産をユーロで持っている。もちろん借金もユーロだ。これをユーロより確実に弱い通貨となる新ドラクマ(ドラクマはユーロ導入前のギリシャの通貨単位)に替えたらどうなるか。新通貨は日に日に弱くなるのだから、実質的な財産価値はどんどん目減りし、逆に負債はどんどん増えることになる。自分の財産を弱い通貨にわざわざ交換する国民などいるはずはないのだ。

 実際、ユーロ離脱の見方が広がると、一般の庶民まで、預金を他の欧州系銀行に移しているという。ギリシャ危機が勃発して以来、大金持ちがロンドンやスイスに金融資産を移しているというのは公然の秘密だったが、それが庶民レベルにまで広がっているというのだ。

 だが、ユーロ建てで借りている住宅ローンや自動車ローンはいかんともしがたい。ユーロ建ての負債を新通貨で返そうとすれば、どんどん返済額が増えることになりかねない。新通貨を受け入れたギリシャ国民を襲う苦悩は、3月にEUが求めた緊縮策どころの騒ぎではないのだ。

 いや、国家が離脱を決めれば、預金封鎖もできるし、新通貨切り替えもできる、と言う人がいる。だが、おそらくギリシャは違う。そんなに強い権限を持っている政府なら、さっさと税率を引き上げて、財政赤字を解消できるはずだ。強制的な通貨交換を国が打ち出せば、大規模なデモが起き、国家そのものが転覆しかねない。

 ユーロを離脱すれば、新通貨の発行もままならず、物々交換が横行するようになる、という新聞記事もある。

 だが、おそらくそうはならないだろう。国がいくら新通貨に切り替えようとも、ユーロがそのまま流通するだけだからだ。政府だけは公務員の給与を新ドラクマで支払うかもしれないが、受け取った公務員は、瞬時に両替商でユーロに替えるに違いない。おそらく新ドラクマの受け取りを拒否する商店も出てくるだろう。

 つまりは、経済がぶっ壊れた旧ソビエト連邦(ロシア)と同じになるのだ。旧ソ連では自国通貨のルーブルでは何も買えなかったが、米ドルだけが使える「ドルショップ」では何でも買えた。しかし、そうした二重経済は、社会主義という強権的な政治経済体制があって何とか維持されていた。今のように、人の移動も資本の移動も自由な経済体制の中で、そもそも二重経済を作りだすことができるかどうかも疑問だ。

国民の多数がユーロ残留を望んでいる

 仮に、公式にはユーロ離脱を宣言しても、新通貨を発行しない可能性もある。ユーロが勝手に流通する状況が続くのだ。EUや欧州中央銀行が公式に許可していないにもかかわらず、ユーロが自国通貨として流通している国はいくつもある。欧州ではイタリアとギリシャのほぼ中間地点にあるモンテネグロという国もその1つ。ディナールという自国通貨を放棄し、旧ドイツマルクを使っていたために、ユーロに自動的に切り替わった。中央銀行も存在するが、もちろん発券機能はない。

 他にもコソボなどの通貨がユーロだ。また、アフリカ諸国の通貨で旧フランスフランや旧ドイツマルクに連動していた国の通貨は、今はユーロ連動になっており、事実上ユーロが通用する。ギリシャもそんな「実質ユーロ圏」の1つに成り下がることは可能なのだ。

 だが、ユーロ圏から離脱すれば自分たちが損をすることをギリシャ国民は理解している。弱い通貨のドラクマからユーロになって経済は過剰なまでに拡大し、結果として国民は豊かになった。ドイツやフランスなどから大量にヒト・モノ・カネが流入したからだ。それを自ら体験してきたのだ。

 現地の世論調査によると、国民の多数がユーロ残留を望んでいるという。つまり、緊縮財政は嫌だが、ユーロから出て行くというのも嫌だ、というのが本音なのだ。ドイツ人からすれば、ギリシャ人は身勝手だ、ということになるのだが、ギリシャ人にしてみれば、ユーロ統合で最も儲かったのはドイツなのだから、被害者のギリシャをもっと支援してもいいだろう、というムードなのだ。

 EUの支援策は白紙だと息巻いていた急進左派連合のツィプラス党首の発言もここへきて大きく変わってきた。「話し合う時だ」として、独仏などの訪問を開始し、各国の左派に協力を求めようとしている。

 その独仏訪問出発の際に、メディアのインタビューに答えて、「われわれは全く反欧州勢力ではなく、欧州の社会的結束を守るために戦っている。われわれは欧州で最も親欧州的な勢力だ」と語ったという。ユーロからの離脱を求めているわけではない、というメッセージだ。結局はより多くの支援を求める条件闘争なのである。

 これに対してドイツも、「出て行くならどうぞ」といった強気の姿勢を見せ始めている。所詮、条件闘争だと見ているからだ。だが、本気でドイツがギリシャの離脱を認めることはない。地政学的には欧州の安定のためにはバルカン半島の安定が不可欠、というのは歴史的教訓として西欧の政治家に刻み込まれている。過去の経験から西欧がインフレを極度に恐れるのと同様、バルカンが反欧州になることも極端に嫌う。だからドイツやフランスがギリシャをユーロ圏から追い出すという行動を取ることはまずないのだ。

 ちなみに、「ユーロ崩壊」を書き立てるのは、米国や英国のメディアが多い。もちろん非ユーロ国というだけでなく、ユーロが嫌いな国々だ。日本のメディアの特派員や国際部記者も米英の論調に敏感な人が多い。ゆえに、日本の大手新聞にもユーロ崩壊論が繰り返し登場するのだろう。

 だが現実にはユーロ安によって、ユーロ圏から域外への輸出が大幅に伸びている。これはドイツの自動車だけでなく、フランスやイタリアの高級ブランド品やワインなども同様に売れている。また、ユーロ安によって域外からEUへの旅行客も好調だ。ドイツなどは景気が過熱気味で、バブルの様相を呈している。ユーロ圏の景気に大きな歪みが生じているのは事実だが、そう簡単にユーロが瓦解することもないだろう。

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