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坂井直樹「デザインのたくらみ」
2012年05月24日(木) 坂井 直樹

アップルのデザイン経営が生み出した「エコシステム」は新陳代謝を繰り返す

世界最薄のラップトップPC、Macbook Airをプレゼンするスティーブ・ジョブズ〔PHOTO〕gettyimages

 巨額の赤字に苦しむソニー、パナソニック、シャープといった国内大手家電メーカーも「良いデザインの商品」を作る努力を行ってきたはずだ。ただアップルと違ったのは製品だけをデザインの対象としたことだ。

 大企業のデザインセンター(あるいはデザイン本部)は、スティーブ・ジョブズのように企業全体のあらゆるデザインに関わることが出来るのか? それは残念ながらNOだ。なぜなら各事業部は縦割りで、権限が分離されているからだ。しかし、そういうルールを縦横無尽に破壊し「デザイン経営」を実現したのがジョブズだった。

 「デザイン経営」という言葉はジョブズの活躍の後、たびたび聞くこととなった。さらに「デザイン・シンキング」という言葉も耳に馴染んできた。これらの一見新しい魔法ツールのようなデザイン観は、皮肉なことに経営者やコンサルタントなど、デザイナー以外の人々から支持され始めた。ただし、デザインの意味は元来、色やカタチよりも設計やシステムを指すものなので、本来の意味に戻っただけとも言える。

 大半のメーカーは長い間、主に「商品の外観(パッケージ)」をデザインの対象にしてきた。1995年以降そこにUI(ユーザーインターフェイス)やUX(ユーザーエクスペリエンス)という概念がデザインの新しい課題として加わった。スマホなどのハードウエアはその膨大なブランド世界の入り口に過ぎず、いまやデザインの対象は全領域に、しかもシームレスに繋がっている。

 単に商品の外観だけではなく、顧客とのあらゆる接点をデザインの対象としたアップルは、デザイン経営を初めて実践した企業として歴史に名を残すだろう。そしてアップルでは、デザインが経営のハブとなり企業活動のすべてに関わり始めた。

 アップルはソフトウエアやUIなどを含むあらゆるサービスをデザインした。「顧客とふれ合う全ての接点」をだ。アップルはマーケティングをしない会社、と時々誤解されているが、それは狭い範囲のマーケティングのフォーカスインタビューをしなかっただけのことで、顧客視点の重視という点で考えれば、これほどマーケティングを徹底的に行った会社は他に見たことがない。アップルのデザイン経営は、一度接点を持った顧客に対しては、徹底して固定顧客化し顧客価値を高め、再購入や顧客連鎖を促進する、などの企業活動の拡大再生産を図ったのだ。

ファブレス企業なのに設備投資額はソニーの1.5倍!

 結果、アップルにおいてはデザインがあらゆる経営上の問題解決の強力なツールとなった。製品、インターフェイス、店舗、広告、製品発表会、サービス、ソフトウエアのすべて(iTunesやiCloud)、つまり顧客のあらゆる体験も、マーケティングのソリューションとしてデザインの対象となった。こういう発想が自然に行われたのは、ジョブズがデザイナーでもエンジニアでもなく、多くの顧客の"代理人"であったからだ。つまりジョブズ一人に話を聞けば、何億人もの集約された顧客の意見を聞くことが出来たのだ。

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