[トライアスロン]
細田雄一<Vol.4>「ロンドンはラン勝負!」

「もっとすごい選手になれる」

 世界選手権シリーズ横浜大会で日本人過去最高の10位、日本選手権の初優勝。2011シーズンは細田にとって自他ともに認める「最も充実した1年」だった。山根の下でプロとして心身ともに鍛えてきた成果がようやく実を結びつつある。

「ようやくスタートラインという感じですかね。細田の伸びしろははかりしれない。廻り道せず、もう3年早く今の状態をつくっていればと思うほどです」

 山根は教え子の素質を高く買っている。それだけに、もうワンランク上のトレーニングを積んでほしいと考えている。
「今も実際にできているのは、こちらがやってほしいトレーニングの9割程度。まぁ、08年に戻ってきた時は7割の練習しかできませんでしたからね。それを考えるとまず練習を継続できる力はついてきたと思います。あとは100%のトレーニングがどのタイミングでできるか。これが可能になれば、もっとすごい選手になれる」

 五輪に向け、当面の課題はランのスピードアップだ。横浜大会ではランの立ち上がりで先頭に立ちながら、最終的には優勝した選手に1分20秒差をつけられた。山根は「世界と互角の勝負をするには、この1年でタイムを1分縮めることが必要」と分析する。

 この目標を達成すべく、細田は2つのことに取り組んでいる。ひとつはより速く走れるフォームづくりだ。足が接地している時間をなるべく短くし、素早く前へ蹴り出す。そのためにはかかとではなく、つまさきに重心を置き、前掲姿勢を保って走ることが求められる。

 だが、ランはトライアスロンの最終種目。スイム、バイクで疲労がたまった体を前へ前へと進めるには下半身の力だけでは不十分だ。
「うまく上半身、腕の力も利用して走ることが求められていると感じます。まだ、僕は体全体を使って走れていない。だから、タイムはもっと伸びる。もっと上に行けると確信しています」

 フォームづくりと並行して、トレーナーと相談しながら、スピード向上に必要なトレーニングも実施している。パズルのピースが次々とはまっていくような快感を今、細田は感じている。

 そして、もうひとつは自らの感覚とスピードを一致させることである。横浜大会は世界のトップスピードを体感する収穫もあったとはいえ、オーバーペースだった点は否めない。「最後までスピードが持たないようでは、当然、いい成績は狙えません。ガクッとスピードが落ちないよう、冷静に計算しながら走ることも今後は求められます」と山根は指摘する。

 よく「プロは心技体」と言われる。しかし、トップクラスになれば、心技体が充実しているのは当然の話。ここで差はつかない。勝敗を分けるものがあるとすれば、本番までの準備やレース中の戦略といった目には見えない力だろう。描いていたプラン通りにレースを運び、頂点に立つには、それこそ精密機械のような繊細さも大切になる。