官々愕々
本当のワルを見逃すな

 東京電力の総合特別事業計画や電力料金値上げのニュースが、連日大きく報道されている。定番となった徹底的な東電叩きは、情報番組で高視聴率を稼いでいるようだ。最近も、夫婦共働きで日中はほとんど電気を使わない世帯を標準家庭として値上げ率を低く見せようとしたことを批判された。

 しかし、この東電叩きの裏で、もっと叩かれていい悪役がいることが忘れられている。原発事故の責任者であり、地域独占と総括原価方式で電力会社を守り続け、世界最高レベルの電力料金を国民に押し付けてきた、経産省というA級戦犯である。

 そもそも、経産省は東電とともに原発事故の共同正犯あるいは東電以上に責任の重い主犯と言ってもよい。ところが、この役所は「悪いのは東電」という態度で一貫していて、全く責任を取っていない。東電の社員の中には何の落ち度もないのに給料が2割カットされるという人も多い。今後何十年も賠償、除染、廃炉という原発事故の負の十字架を背負って生きて行かなければならない。経産省の官僚も、それと同等以上の厳しいペナルティを受けてしかるべきだ。

 16日に国会の事故調に参考人として呼ばれた松永和夫前経産事務次官は、「大変申し訳ない気持ちでいっぱい」と言ったが、当時の責任者である事務次官、資源エネルギー庁長官、原子力安全・保安院長の3人が割増退職金をもらって早々と経産省を逃げ出したことは、東電職員との比較で見るとどう考えても不当だ。経産省が東電に偉そうに指示することに対して東電職員は怒り心頭と言われるが、それもなるほどという気がする。

 その経産省が、いつの間にか悪役東電と闘う正義の味方になりすまし、事あるごとに東電を叩く。しかし考えてみれば、実質国有化される東電は経産省と全て事前に相談して物事を進めざるを得ない。今回の値上げももちろんそうだ。枝野幸男大臣は、いかにも厳しく審査するかのような人気取りの発言をしたが、値上げ率を値切ることはあっても大筋を変えることはないだろう。

 原発事故で唯一得をしたのが経産省だ。彼らは国民の税金を使う東電国有化を決めた。「国有化」とは世間向きの言葉で、要するに東電は「経産省のもの」になるのだ。昔から東電に天下りポストはあったが、そんな利権など可愛いものである。既に原子力損害賠償支援機構にポストを確保した経産省は、禁じ手の「規制対象」である東電の利権、しかも子会社も含めた全ての利権を手に入れる。

 規制する側とされる側が一体化されるから、厳しい審査はあり得ない。値上げ審査を本気でやるなら、独立した数十人の会計専門家を東電に立ち入りさせて、過去の契約や領収書を一枚ずつチェックしてあらゆる無駄や不正を洗い出し、国民から取り過ぎていた電力料金をまず返還するくらいのところから始めるべきだが、そんなことは無理だ。

 東電を叩いて鬱憤を晴らすだけで終わっては、国民は今後も経産官僚の利権を守るために高い電気料金を取られ、増税で負担のツケ回しをされてしまう。電力問題の全ての元凶である経産省から電力事業の規制権限を取り上げて、公正取引委員会のような独立した委員会に規制を委ねるべきである。マスコミは是非この問題を真剣に取り上げてほしい。

「週刊現代」2012年6月2日号より

大反響!
新聞が書かない日本の問題点がわかる!
 
著者:古賀茂明
価格:400円(税別)
配信周期:
・テキスト版:毎月第2金曜配信
・動画版 :毎月第4金曜日配信
 
 
※お申込月は当月分(1ヵ月分)を無料でお読みになれます。
 
 
『原発の倫理学―古賀茂明の論考―』
著者:古賀茂明
価格:500円(税別)
※2013年5月下旬発売予定
 
大好評有料メルマガ「古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン」の多岐にわたる論考の中から、原発事故関連、電力問題に関する記述をピックアップ。政治は、経産省は、東電は、そして原発ムラの住人たちは原発事故をどのように扱い、いかにして処理したのか。そこにある「ごまかしとまやかし」の論理を喝破し、原発というモンスターを制御してゼロにしていくための道筋を示す。
「核のゴミ」を処理できないという大問題の解決策がない以上、「原子力は悪である」という前提に立った上で取り扱うべきだという「倫理感」が国民の共通基盤になるはずだという筆者の思いは、熱く、なおかつ説得力がある。
 福島第一原発の事故で原発の恐ろしさに目覚めた人、原子力ムラの企みと横暴に怒りを感じた人、そして「脱原発」を目指す多くの人に、真実を伝え、考える道筋を示し、そして希望を与える「魂のメッセージ」。