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 5月11日付で発令された日本銀行の幹部人事が話題になっている。重要ポストの企画局長に歴代最年少の内田真一氏(49歳)が就任したことも注目の的だが、市場関係者の関心を集めているのが、政策担当理事で「量的緩和政策」立案の中心人物だった雨宮正佳氏の大阪支店長への異動だ。

 日銀は表向き、「雨宮氏に支店長経験がないため」と説明しているが、政府・与党関係者には寝耳に水の人事だっただけに、「大阪に飛ばされた」と見る向きもある。だが、この人事の正しい解釈は、橋下徹大阪市長率いる「大阪維新の会」対策、だろう。

 雨宮氏はこれまで企画畑を歩んできたエリートで総裁の有力候補。日銀の総裁候補は早くから帝王学を授けられるのだが、その一つが「大蔵省(現財務省)への出向」だ。雨宮氏もその例に漏れず、若いときに大蔵省で法案作成やその根回しを経験し、政治家との絶妙な距離感を学んだ。白川方明総裁にはそうした感覚がなく、政治オンチと呼ばれているのと好対照だ。

 ちなみに、日銀のプリンスとして育てられた前総裁の福井俊彦氏も大蔵省への出向経験があり、そこで机を並べていたのが、財務事務次官を経て'03年に日銀副総裁に就任した武藤敏郎氏だった。雨宮氏はいわば、福井氏以来の本格派プリンス。プリンスの条件は、高邁な経済理論を振りかざすのではなく、政府・与党といかに互角に渡り合えるかという政治力であって、その点で日銀には雨宮氏の右に出る者はいない。

 さて、大阪維新の会は日ごとにその存在感を増している。消費税増税や原発再稼働問題ではことごとく民主党政権の逆の政策を打ち出し、ついには倒閣まで口にした。次期総選挙で台風の目になることは確実で、場合によっては政権を握る可能性すら秘めている。

 その場合、気がかりなのが橋下氏の言動だ。日銀に関しても、「独立性が強すぎる」「(金融政策の)目標は(日銀ではなく)政府が決めるべきだ」と世界標準の正論を語り、インフレターゲット設定などを盛り込む日銀法改正にも前向きとされているからだ。そして、そんな橋下氏を説得して路線変更させられる力量の持ち主は、雨宮氏しかいないというのが実情だ。

 ここで、日銀がどうやって政治家に取り入るのかを見ておこう。まずは目をつけた政治家に金融関係のデータをこまめに届けることが第一歩だ。そのうち、「ご説明に上がりたい」と接触し、定期的にアポが取れるようになったら、しめたもの。夜の会合に誘い出す。日銀は、人目を気にせず夜の宴会ができる立派な施設を各地に持っている。

 強みはなんと言っても経済情報。民間金融機関の懐具合を知っているので、かなりの極秘情報も持っている。また、金融機関やそのシンクタンクに天下りも大勢おり、彼ら元日銀マンたちは古巣の情報などを元に経済情勢などを上手に語るから、政治家の講演会などにはうってつけのゲストになる。こうしたマンツーマンの人間関係で政治家に食い込むのだ。

 問題は、こうした日銀のお家芸が橋下氏に通用するかどうか。橋下氏は議論を徹底的にオープンにする。部内の会議でさえ公開しているし、記者会見はユーチューブで見られる。日銀の得意技であるマンツーマンの対人戦法は橋下流とは対極にあるのだ。

 日銀の大阪支店は、御堂筋を挟んで大阪市役所の真正面に位置する。「地の利」は果たしてメリットになるだろうか。

「週刊現代」2012年6月2日号より


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