雑誌
特別対談「お金と日本人、その歴史的考察」藤原敬之×福田和也
金持ちには金持ちの理由があるんです

 大切にするのもいいけれど、「持ち腐れ」という言葉もある。金持ちだからお金を使えるというより、お金の使い方を弁える人が金持ちになれるのかもしれない。あなたは、守銭奴になっていませんか?

バブル崩壊、デフレ、戦争 

ふじわら・のりゆき/'59年、大阪生まれ。カリスマ・ファンドマネジャーとして活躍した後、著述家に。著書に『日本人はなぜ株で損するのか?』、波多野聖のペンネームで『銭の戦争』など

藤原 いまの日本が非常に危ういと思うのは、すべてが〝縮小均衡〟に向かっていることだと思うんです。洋服はユニクロ、食事は牛丼屋やコンビニ弁当と、安いものしか売れない。

 しかも、お金を使わないことが美徳であるように、エコロジーだとか循環型社会だとか言われています。ファンドマネジャーとして、億単位のお金を日々動かしてきた私から見ると、こういう縮小均衡をずっと続けて、その先に何があるのかと疑問に思います。

福田 1982年に韓国の文芸評論家・李御寧が書いた『「縮み」志向の日本人』に興味深いことが書いてある。日本文化はいわば「折り詰め弁当型」で、狭いところにものを密集させるのが日本人の美学だと指摘しているんです。たしかに、拡大するよりも小さくまとまっていくほうが、精神的に落ち着くのかもしれない。

藤原 折り詰め弁当というのは日本人の一面を表していると思いますが、福田さんや私のように昭和30年代生まれは、子どものころからインフレしか知らない。50円の「週刊少年マガジン」が翌月60円になり、さらに70円になりという時代に育ったわけです。

 いまでもよく覚えているんですが、小学5年のとき社会科の教科書に、デフレについて「モノの値段が下がること」と書いてあった。当時の私はその意味が理解できなかったんです。モノの値段は上がるのが当たり前で、下がるはずがないと思いこんでいましたから。ところが、いまの30歳以下はデフレしか知らない。

福田 そうですよね。大学で学生に教えていても、バブルのときにいたデタラメな学生は少ない。良くも悪くも大人しい真面目な学生ばかりで、ちょっと可哀想になります。

藤原 デフレが恐ろしいのは、通貨の価値が上がるために国の価値も相対的に上がってしまうことです。だから、政治家や官僚、日銀もデフレ解消に真剣にならない。民間にとってデフレがどれだけ深刻でも、それが為政者にはいまひとつ実感できないから、効果的な手を打たないまま、だらだらと続いてしまう。

福田 結局、バブルが崩壊して以降、この20年のデフレの意味は、世代間競争で老人が勝ってきたということですよね。つまり通貨の価値が上がっていくために、預金を持っている老人は安泰。だけど、これから稼がないといけない世代は厳しい。それも、若い人ほど不利です。政治家や官僚たちは、この世代間の軋みをどうやって解消していくのかが問われている。

ふくだ・かずや/'60年、東京生まれ。文芸評論家、慶應義塾大学教授。著書に『悪女の美食術』(講談社エッセイ賞)、『死ぬことを学ぶ』など。現在、本誌で「旅と書物と取材ノート」を連載中

藤原 日本の政治家でデフレの恐さをいちばん知っていたのは高橋是清だと思うんです。小説『銭の戦争』で彼をとり上げましたが、昭和の初めに、大蔵大臣としてインフレ政策を進め、世界恐慌からいち早く日本を脱却させた高橋は、財政を拡大してもいいから、とにかく経済を活発に回転させようとした。為政者は国を縮小均衡にしてはならないという明確な考えを持っていたわけです。

 デフレが恐ろしいのは、脱却するには最終的に戦争するしかなくなること。これは歴史が証明しています。

福田 第一次世界大戦前、ヨーロッパのブルジョワは年率5分や7分で回る公債を大量に持っていた。彼らがヨーロッパ文化を担っていたわけですが、大戦を経て、デフレが進んでいく。結果的にそれを解消したのは、スペイン戦争でしょう。

藤原 バブルが起き、それが崩壊してデフレになり、究極の公共投資=戦争で解消していく。このパターンを繰り返しているんです。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら