大特集 父と子の「ロンドン五輪出場」栄光までの二人三脚を明かす わが子をどう育て、どう伸ばしたか
---汗と涙の「家族の記録」

 可愛い盛りの娘に教えた。「金メダルはスーパーでは売っていないんだよ。あれは頑張った人しかもらえないんだ」。その娘がオリンピックに出る。父のあの時の教えはいまも彼女の胸に刻み込まれている。

世間体は気にしない

 日本体操史上初、3兄妹(和仁、理恵、佑典)そろっての五輪出場決定。和歌山にある田中家は一夜にして「日本中が注目する一家」となった。

 父・章二さん(62歳)は自身も体操の国体選手で、現在は体操クラブの運営と指導を行う。夜遅くまでコーチ業に忙しい章二さんに代わり、母方の祖母・湯川美代子さん(80歳)が取材に応じてくれた。

「章二さんは仙人みたいなヒゲを生やしてますけど、中身はなかなか豪快でね。3人のオリンピックが決まったときも、往来で私を見つけるなり抱きついてきてねぇ。少なくとも、世間体とか周りの目を気にする人ではありません(笑)」

 美代子さんの娘、つまり3兄妹の母・誠子さん(51歳)にとっても、章二さんは師匠だった。

「高校の体操部の監督だったんです。娘が部活中に肋骨を折ったことがあったんですが、章二さんは『こんなものはケガのうちに入らない』って。当時は『なんて乱暴な先生だ』と思ったけど、結果的にそれをバネにして娘は成長した。独特の指導力があるんです」

 その指導力は「論理力」に基づいていると証言するのは、章二さんと一緒に体操クラブを立ち上げた伊熊博文・和歌山県高体連体操部委員長だ。

「見た目によらず学者肌の人で、体操理論に加え医学的な研究もしていた。たとえば平行棒では脚ではなく腕の力で身体を動かすのですが、僕らが小学生に教えるときは『腕を動かして』くらいしか言えないんだけど、章二先生は『脚で動かすとどうなるか』『なぜ腕で動かさなければならないか』と、論理的に滔々と説明するんです。

 もちろん難しすぎて小学生には理解できず、時には保護者に『章二先生の言うことがわからないと子供が言っている』と指摘されることもあります。是非は別として、それが彼の一貫した指導スタイルです」

 章二さんの指導がけっして「間違い」ではないことを、今回、3兄妹が見事に証明したと言える。長女の理恵が24歳という年齢や身長が大きすぎるといったハンデを乗り越え五輪切符を手にしたのも、能力を伸ばす「父の論理」がベースにあったからだろう。

 ただ、親とはいえ論理的な師である章二さんに、理恵は弱音を吐けなかったのかもしれない。祖母の美代子さんが明かす。

「ちょうど4年前、北京五輪の選考会の直前に理恵から手紙が届いてねぇ。宛名は私と、その2年前にすでに亡くなっていた主人。それまで壁にぶつかっては乗り越えてきた理恵も、この頃は本当にしんどかったようです」