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 内閣府が5月17日に'12年1~3月期のGDPを発表する。民間シンクタンクの予測では、実質GDP成長率は前期より0・8%増だそうだ。

 この内閣府の数字はQE(Quarterly Estimates)と呼ばれており、17日発表分は1次速報。その後、新たに利用可能となった資料を用いて6月8日に2次速報が発表される。民間シンクタンクは、それぞれについて独自の方法で数字を予測する。というのは、内閣府が発表する数字は日本全体のマクロ経済の状況についての現時点での景気判断の基礎資料になり、株価などもこれで左右されることがあるからだ。

 そのため、発表する速報値は政府内でも「厳秘」として扱われる。解禁時間は、午前9時に株式市場が開く直前の8時50分。内閣府でGDP速報を計算する部署では、発表当日までは正式な計算をせず、当日の朝に担当者が部屋に入り外部との接触を断った上で最終的な計算をするという。そして、その厳秘資料を官邸高官に渡す際は、必ず手渡しするのが決まりだ。

 実は政権交代直後の'09年11月16日、直嶋正行経産相(当時)が解禁時間より30分ほど早く、石油連盟首脳との懇談の挨拶の中でGDP速報数字をしゃべってしまった。幸いなことに大きな問題にはならなかったが、経産相としては不見識極まりないチョンボであった。

 この統計情報の事前漏洩は困った話だが、似たような統計が複数の役所で作られているのはいかがなものか。例えば物価統計に関しては、消費者物価指数が総務省、企業物価指数は日銀、GDPデフレーターは内閣府がそれぞれ作成している。もちろん、これらは概念的に異なっているので決して無駄というわけでないが、仕事を集約することは可能だろう。

 統計数字についての本当の問題は別のところにある。日本政府や日銀の分析能力が低いことだ。コロンビア大学ビジネス・スクール「日本経済経営研究所」のデビッド・ワインシュタイン教授は、「統計学などの高等教育を受けた人材が当局には少ない。精度の低い統計によって政策判断に歪みが出ないよう、専門家の層を厚くすべきだ」と主張している。

 同教授によれば、米連邦準備制度理事会は数百人の博士号レベルの経済学者を抱えており、彼らが数千人の統計学専門家が処理した情報を分析しているという。それに対し、日銀には博士号を持っているスタッフが20人足らずしかおらず、総務省には一人もいないとも語っている。

 その弊害についてもワインシュタイン教授は指摘している。'06年3月に日銀は量的緩和を解除したが、その時の消費者物価指数対前年比上昇率は0・5%。この数字で日銀はデフレ脱却と判断し、金融政策の変更を行った。ところが、消費者物価指数には「上方バイアス」といって数字が高めに出る性質がある。実際、8月に再計算したところ、0・5%ではなくマイナス0・1%だった。まだデフレを脱し切れていないのに、日銀は誤って量的緩和の解除をしてしまったのだ。まるで素人である。

 こうした日銀の無能さが景気回復の絶好の芽を潰した。事実、量的緩和解除の半年後くらいから景気が悪くなって坂道を下りだし、その後のリーマンショックが追い打ちをかけた。これが、リーマンショックの震源地ではないのに、日本が世界最悪のダメージを被った理由だ。数字を正しく扱う体制作りもまた、この国の急務である。

「週刊現代」2012年5月26日号より


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