雑誌
加藤典洋×内田樹
「この国の未来原発と橋下を語ろう」

徹底討論 迷えるニッポンはどこへ行くのか
週刊現代 プロフィール

 原発の廃炉まで20年、200兆円。この国が背負っている現実はあまりにも重い。しかし、そこを直視せずに、この国の未来など語れない。どう現状維持するかではなく、どう変わるか。そこから始まる---。

「時間がない」という脅迫

加藤典洋氏

加藤 今の日本社会を一言で言うと、「浮き足立ち社会」になるでしょう。たとえば原発の再稼働。原発全停止が実現すると「夏に電気が足りなくなるぞ」とまずタイムリミットを置き、人を急き立て、浮き足立つ形で国論を二分する大問題が提起されています。これが最近の特徴ですよね。

内田「原発がなければ生きていけない」と言っていますね。冷静に考えれば、そんなわけないのに。

加藤 テレビや新聞も特集を組んでいます。

内田「待ったなし」という誰が決めたかわからないタイムリミットだけあって、「もう時間がない、残された選択肢はこれしかない」と迫る。時間がないことを言い訳にして、考える義務を自己免責している。

加藤 これは原発再稼働に限った話でなく、普天間問題でもそうでした。アメリカの議会から「タイムリミットだ」と責められていると言って、その間はメディアも大騒ぎをした。でもアメリカが「普天間問題とグアム移転を分けて考える」と決めると、あっさりタイムリミットが外れ、憑きが落ちたようにもうメディアも扱わなくなる。沖縄の状況は変わらないのですが。

 こうした「タイムリミット症候群」の背景に、廃炉まで20年間で200兆円を要すると言われる、原発災害によって日本社会に生じた損失の「大きすぎる穴」をどう解決するか、これにどう立ち向かうか、という課題から目をそらしたい我々みんなの無意識の病理、逃げの姿勢があるという気がしてならないんですが。

内田 原発事故でもう一つ顕在化したのが、ステークホルダー(利害関係者)をやたらに増やして恫喝する手法です。原発が止まると困る人は探せばいくらもいる。それがぜんぶ「人質」になる。この全員が納得する解決策を出してみろ、と恫喝してくる。関係者が増えれば増えるほど、最終的には「じゃあ、現状維持」という結論になる。

加藤 僕は原発事故の直後、すぐにラヴクラフトの短編小説を思い出した。ある村に奇妙な一家が引っ越してきて、やがて頻繁に家の増築を行う。何だろう、と見ているとどんどん増築のペースが早まって、ある日ボーンと屋根を破ってモンスターが出てくる。

 その一家はモンスターを飼ってて、家の中で急成長をはじめたモンスターを村人の目から隠すため、増築を繰り返していたんです。あれから、何度もこの話を思い出しましたね。

内田樹氏

内田 そのたとえ話は原発だけじゃなく、日本の戦後政策のあらゆる面に当てはまりますね。要するに「グランドデザイン」がないんです。温泉旅館によくあるじゃないですか、客が増えたからと建て増しし、風呂場が足りないから、トイレが足りないからとその場しのぎで建て増ししているうちに、醜悪で巨大な建物になってしまう。

 長期的な設計図がないままに、とりあえず「待ったなし」のニーズに応えているうちに日本もそうなっています。

加藤 まず、菅降ろし、次いで普天間、TPP、原発再稼働、消費税と、日本政府も次から次へと大問題を提起し、増築をしてきたわけです。でもそれらがどんなモンスターを隠してきたかが、問題でしょう。TPPは昨年11月のAPEC前に、一度タイムリミットが設定され大騒ぎしました。でも野田首相の参加表明後は話題になりません。とにかくすべてが一過性的、神経症的なんですね。

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