中国
北京が「東アジアの首都」になる日---急速に復元されつつある中国を中心とした「古代からのアジアの形」
共同記者会見の場に姿を現した李明博大統領(左)温家宝首相(中)野田首相(右)〔PHOTO〕gettyimages

"The CJK FTA negotiations would be launched within this year."
(中日韓は自由貿易協定の交渉を年内に立ち上げる予定である)

 たかがと言うかされどと言うか、このわずか1行の文章に合意するために、野田佳彦首相と李明博大統領が5月12日に訪中し、温家宝首相を交え、5月13日に日中韓サミットを開いたと言っても過言ではなかった。その後、3人仲睦まじく揃って、公の場に顔を見せた。

 思い起こせば、今回が5回目となるこの日中韓サミットの「発起人」は、自民党政権時代の麻生太郎首相である。アメリカ発の世界的金融危機が東アジアにも飛び火する中、東アジア3ヵ国も協力して危機に対処していこう、というのが設立当時の主旨だった。だから2008年暮れの第1回目のサミットは、麻生首相の故郷・福岡で開催した。

 この時、麻生首相は特大の博多人形を、温首相と李大統領にプレゼントした。特に李大統領は、博多人形を殊の外喜び、私が翌2009年、青瓦台(韓国大統領府)で李大統領にお目にかかった時、青瓦台の中にこれ見よがしに飾ってあるのを発見したものだ。この時以降、主催国がお土産を用意する習慣ができ、今回中国はトキを2羽ずつ、日韓両国に贈った。

 あれから4年、中国と韓国の「顔」は不変だが、日本の「顔」だけは、麻生、鳩山、菅、野田と毎年塗り変わった。そのような中で、いつの間にか大事なことは3年毎に開かれる中国大会で決めるようになった。これが国力及び国勢の差というものだ。そして今回決めたのが、冒頭述べた「FTA交渉の開始を年内に予定する」ということだった。

日本は江戸時代の鎖国状態に戻る?

 今回の日中韓サミットを下準備した、日本、中国、韓国のそれぞれの官僚から、3ヵ国のFTAに関して、北京で興味深いホンネの裏話を聞いた。以下、羅列してみる。


日本:「経済産業省の一室に、『準備室』を急ごしらえで設置したのはいいが、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)とFTAがごっちゃになっていて、いったいどちらを先に手を付けるの? という感じだ。

 ASEAN+3(東南アジア10ヵ国+日本、中国、韓国)のFTAと、TPP(アメリカ以下10ヵ国)とを比較すると、世界人口に占める割合は、ASEAN+3が31.0%(2010年、以下同)なのに対し、TPPは7.4%。日本の貿易額を見ても、ASEAN+3が全体の41.5%を占めるのに対し、TPPの方は24.6%に過ぎない。経済的重要性から言えば断然、前者の方が大事だが、後者は日本の同盟国であるアメリカが主導しているという点で、やはり大事だ。

 そんな米中両大国の狭間で、野田政権は迷走していて、日本もアメリカも秋に政権交代で政策も変わるだろうという冷めた見方が、霞ヶ関全体を覆っている。加えて、韓国も年末に大統領選で政権交代、中国も秋の共産党大会で政権交代だ。というわけで、合意文書に記した『年末までに立ち上げる予定』というのは、『なんとなくどこも政権が変わる年末頃から新政権で始めましょう』という、極めて曖昧な意味合いだったのだ」


中国:「わが国としては、日本、韓国とFTA同時締結に早期に持っていきたい。ASEANとは2010年に発効し、台湾とも同年、ECFA(両岸経済協力枠組協議)を発効させた。周辺諸国との域内貿易が急増中の昨今、次は日韓と結ぶ番だ。これは、『経済関係が密になるほど戦争は起こらない』という中国古来の周辺外交の智恵でもある。

 両国との交渉の中で韓国を先行させているのは、二つの理由からだ。一つは韓国が積極的でハードルが低いこと。二つ目は、中韓FTAが締結されれば、日中韓FTAも同時締結となる可能性が高いからだ。それは、1994年にNAFTA(北米自由貿易協定)が発効した時の経緯を見れば分かりやすい。

 アメリカとカナダが乗り気で、メキシコが躊躇していたため、アメリカとカナダが2国間で締結しようとしたら、結局最後になってメキシコも加わったのだ。なぜなら加わらないと、巨大なアメリカ市場をカナダに席巻されてしまうからである。同様に、巨大なわが国の市場を韓国に席巻されるという危機感から、日本も同時に加わるに違いないと見ている。

 だがFTA交渉というのは、始めてからが大変だ。われわれは『外交マージャン』と呼んでいるが、90いくつある業種を、互いに捨てたり拾ったりしていく。たとえば、こちらが繊維分野で妥協する代わりに、そちらが農業分野で折れろ、といった類の交渉だ。3ヵ国とも、バックにそれぞれの業界団体や政治家を抱えているから大変だ。しかも今回は3ヵ国なので、一筋縄ではまとまらないだろう」


韓国:「わが国は昨年、アメリカとEUという世界3大市場のうち二つの市場とFTAを発効させ、これは李明博政権最大の功績とも言える。次は残る巨大市場、すなわち東アジアの中日との締結だ。

 両国のうち、中国との交渉準備は比較的スムーズに進んでいるが、日本は岩のように動かない。『地震復興対策が優先』とか理由をつけているが、日本の硬直性はいかんともしがたい。外から客観的に分析すると、日中韓FTA締結こそが、最大の地震復興対策ではないかと思うが、日本はそうは捉えていないらしい。

 韓国国内では、日本は江戸時代の鎖国状態に戻るのではないか、という分析もされ始めたくらいだ。この5年で、アジア経済のことは中国と話せば事足りるという時代に、完全に変わった」


このように中国と韓国の外交官からは、日本外交の"漂流"を危惧する声が強かったのが印象的だった。

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