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シャープもパナソニックも!「裏切りの工場撤退」で補助金が泡と消えた

 雇用を期待して数億~数十億円ものカネを支払った自治体。だが、閉鎖や稼働停止が相次ぎ、現在、補助金返還を巡るトラブルが続出している

シャープの亀山工場

 三重県亀山市。人口約5万人、古くは東海道五十三次の宿場町として栄えた。この地にシャープの液晶パネル工場が完成したのは'04年だった。2年後には第2工場も稼働し、ここで作られる液晶パネルは「世界の亀山ブランド」として人気を博し、シャープのテレビ事業を不動のものとした。そして亀山市も税収増となり、一時は、国から地方交付税を受けない「不交付団体」に昇格するまでになった。

「当時の北川正恭知事が中心になって、三重県が約90億円、亀山市が45億円の補助金を出して誘致したのが亀山工場でした。この成功で、全国の自治体の誘致熱は高まり、結果、補助金の金額も高騰しました」(全国紙経済部デスク)

 が、'09年に亀山工場の一部ラインは中国企業に売却され、もう「世界の亀山ブランド」のテレビパネルは製造されていない。亀山市も「交付団体」に戻っている。

 亀山工場に向かう。JR亀山駅から車で約15分、山林を切り開いた工場地帯を走るとすぐに、銀色の工場群と赤い「SHARP」の文字が目に飛び込んでくる。敷地約33万m2。昨年5月時点で関連会社、協力会社の従業員7100人が働いていたというが、出入りする人は少なく活気が感じられない。道路を隔てたマンションには「入居者募集中」の大きな看板。住民に声をかけると「かなり部屋が空いている」という。駅前商店街のスーパーはガラス戸が閉まっている。隣の食堂にも人影はない。市内に1軒だけあった鮨屋も店を閉めたという。

 県と市で合計135億円ものカネをぶち込んだ誘致プロジェクトは約6年で息切れし、それとともに町も寂れたのだ。そして、シャープには三重県から約6億4000万円の返還請求がなされた---。

 今、こうした補助金返還請求というトラブルが全国の自治体で起きている。帝京大学経済学部の黒崎誠教授が言う。

「テレビ事業を柱にしてきたシャープ、パナソニック、ソニーの3社だけで、'12年3月期決算の赤字額は、約1兆3000億円に迫る。各社、テレビ事業の縮小を決断し、国内工場の閉鎖は進んでいる。しかし、自治体はこれまで企業を誘致するために、土地を安く払い下げ、公共料金を安くし、周辺道路などのインフラを整備し、その上で住民の税金から補助金まで交付して迎え入れてきた。これほどまでに優遇されていながら、経済環境が悪くなったからといって、わずか数年で撤退するというのは、地元を騙したとしか言いようがありませんね」

NECでは住民訴訟が

 上の表は、主な補助金の実態と返還請求トラブル例をまとめたものだ。これを見ると、稼働期間の短さと、交付された補助金と返金額の落差に驚く。補助金は、企業に対して一括して交付される場合もあれば、分割の場合もある。自治体によっては「奨励金」名目で支払われるケースもある。いずれにしろ、税金でまかなわれていることは言うまでもない。

 補助金と返還金の落差で突出しているのが、冒頭でルポしたシャープの亀山工場だ。前三重県議の荻原量吉氏が憤る。

「私たちは契約違反として、県がシャープに払った補助金の全額返還を求めるようにと議会で要求しました。ところが県は、補助金交付の規約上、違反はないとして返還請求はせず、シャープ側と勝手に合意して、6億4000万円の返金を受け取って済ませてしまった。それどころか、県は補助金90億円(15年分割で支払う契約)のうち未払い分の24億円を今後もシャープに支払うとしている。そんなバカげた話がありますか。県は税金を何だと思っているのか」

 シャープに対して補助金の返還金を6億円あまりで合意した点について、三重県雇用経済部はこう説明する。

「企業立地促進補助金の規約では、設備投資額が600億円を超え、従業員が600人以上あれば条件を満たすことになっています。シャープさんは工場の一部を売却して縮小することになりましたが、この条件をクリアしているので、工場設備を売却しても返還請求をするにはあたらないと判断しました」(企業誘致推進課)

 県によれば、返金された6億4000万円は、あくまでも企業立地促進補助金の規約によってはじき出された金額なのだという。だからなのか、「返還金」ではなく「納付金」という呼称を使う。三重県は誘致した側の弱みがあるのか、返還請求には弱腰なのだ。また、45億円を補助金として支払った亀山市に至っては一銭も受け取っていない。

パナソニックが撤退した千葉県茂原市内の商店街。かつては日立製作所の城下町として賑わったというが 〔PHOTO〕吉田暁史

「誘致補助金の45億円については、シャープが支払う固定資産税の9割にあたる金額を、奨励金として毎年支払う契約でした。ですから、これまで支払った分については返還請求などしません」(市環境産業部商工業新興室)

パナソニックの茂原工場

 パナソニックは、兵庫県尼崎市と千葉県茂原市の工場撤退で地元に衝撃を与えた。尼崎では第1工場を停止、第3工場を休止した。兵庫県は二つの工場に対して約38億4000万円の補助金を出している。兵庫県の場合、操業年数に応じて返還を求める規定がなかったため、今年2月、規定を変更した。

「過去にも補助金を一括でなく10年分割で支払うよう制度を見直したことがありますが、今回は、急に工場を廃止した場合、それ以降の補助金を支払わないことを明確にしました」(県産業立地室)

 県は稼働期間分を除いた補助金12億6000万円の返還を求めている。パナソニック広報部は「県の指導に従う」としているが、まだ支払われていない。

 一方、茂原工場は'11年度でパネルの製造を中止。官民ファンドと大手電機メーカー3社が出資する新会社「ジャパンディスプレイ」に売却されることになった。千葉県は'06年から6年間で20億3000万円、茂原市も約13億5000万円の補助金を交付してきた。

 茂原市はもともと、日立製作所の城下町だった。全盛時は「朝の出勤時に駅から工場まで人の列ができた」(地元住民)というが今、駅前は閑散として、人通りはまばらだ。廃業したビジネスホテルやシャッターの閉まったゲームセンターが目立つ。不動産屋によると、「工場の撤退でワンルームの空室が増えた」という。市の担当者は、「1000億円を投資した企業がこんなに早く撤退してしまうとは」と驚きながら、売却先の新会社の事業や雇用の規模を踏まえて、新たに補助金を交付する予定だ。

 住民訴訟に発展してしまったケースもある。長野県伊那市では'05年に操業を開始した「NECライティング」の工場が'10年に閉鎖された。それまでに市が支払った補助金は約1億5889万円。それに対して「解決金」1000万円が提示され、市議会が受け入れた。この決定に、住民が立ち上がったのだ。補助金の全額返還と損害賠償金請求を求めて訴訟を起こした住民代表の市川富士雄氏が言う。

「日本を代表する企業が、進出先で補助金をもらうだけもらって、さっさと撤退してしまう。そんな地元をバカにした話があるでしょうか。いらなくなった工場用地が荒れ果てたまま残り、費やした工事費用が市の負担として残る。こんな大企業の身勝手を許してはいけません」

 NECライティングは、この件について、「現在裁判で審議中でもあり、コメントは控えさせて頂きたい」とする。

 前出・黒崎教授が言う。

「地元はほとんど恩恵を受けないまま、企業が逃げ出したのですから、行政も結果責任を問われるべきです。地元への裏切り行為をしているわけですから」

 企業誘致の失敗で税金が泡と消えたことを、自治体は理解できているのか。

「フライデー」2012年5月11・18日号より

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