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スペシャル・インタビュー 大阪府市統合本部・特別顧問ブレーン古賀茂明が明かす「橋下徹」
官僚として政策立案に携わってきた古賀氏にとって、政治家に必要なものは「実行力」だという〔PHOTO〕本多治季

 大阪維新の会を率いて次期衆院選を睨む風雲児を、『日本中枢の崩壊』を著した元経産省キャリア官僚はなぜサポートするのか。〝独裁者〟の「素顔」と「強み」そして「これから」を語り尽くした!

「昨年の秋頃、橋下さんが大阪都構想を打ち出して、市長選に出ると言い出した時、『府知事選に出てほしい』と声をかけられたのが、そもそもの出会いでした。でも、僕は九州生まれで育ちはほとんど東京と神奈川。大阪のことは全然知らない。だから、お断りしました。

 ただ、その頃から橋下さんに対する興味が大きくなりました。橋下さんをテレビや新聞で見ていると、実に理路整然としている。あれだけ忙しいのに、ツイッターなど細かいものも合わせて、発言量が凄く多い。だから僕は、『一人であんなにいろんなことを書いたり、発言したりできるはずはない。誰かゴーストライターがいるはずだ』と、疑ったんです。ところが、一緒に働くことになって、驚いた。本当に全部一人でやっていることが分かったからです」

 こう話すのは、元経済産業省のキャリア官僚で現在、大阪府市統合本部の特別顧問を務める古賀茂明氏(56)である。統合本部のメンバーは全部で57人いるが、その中でも、橋下徹・大阪市長(42)が信頼を寄せる一人だ。大阪府市エネルギー戦略会議で、関西電力大飯原発の「再稼働に関する8条件」(後に「提案」に変更)をまとめた中心人物でもある。官僚時代に政府の公務員制度改革案を批判し、著書『日本中枢の崩壊』(講談社刊)もベストセラーとなった。

 その古賀氏が今回、本誌のインタビューに答え、変革の真っ只中にある「大阪改革」の舞台裏を語った。果たして、過激な発言や急進的な政治手法で〝独裁者〟とも評される橋下氏とは、どんな素顔を持つトップなのか。橋下氏率いる大阪維新の会はこの先、どこに向かうのか---。

「再稼働を絶対に許してはいけない。国民をバカにしている。こうなったら、民主党政権を倒すしかない。次の選挙では代わってもらう。今日から反対運動だ!」

 4月13日、橋下氏は大飯原発の再稼働を巡って、こう倒閣宣言してみせた。野田(佳彦)政権は大飯原発の安全性を確認したとして、再稼働の最終条件である原発立地自治体の同意を得るため、福井県とおおい町の説得に入っている。この姿勢を世論は受け入れないだろうと見て、橋下氏はここが勝負時と大声を上げたのだ。次期衆院選も睨んだ、与党・民主党への宣戦布告だ。今や国政レベルでも各党がすり寄り、橋下氏の顔色を窺うのに懸命という状況。大阪維新の会の勢いは、順風満帆を遥かに超えている。

 官僚として政策立案を仕事としてきた古賀氏が、橋下氏のブレーンとなることを決意したのは、「初めて政策を実現してくれる政治家が現れたと思ったから」だと語る。

「一番の魅力は、リスクを取れることです。政治家は皆、増税はしないとか、こんな政策を実現しますとか普段は耳障りのいいことを言っている。が、いざ法案化の準備という段階になると、怖がって何もできないまま終わってしまう。『これをやると選挙に落ちるんじゃないか』『後援者や官僚を敵に回すことになるんじゃないか』と、計算、打算が働いてしまうのです。その点、橋下さんは府知事のイスを捨て、大阪都構想を実現させるために市長選に出た。全党を敵に回し、経済界も敵に回した。本来なら、どこかの政党と手を握るとか、経済界を味方につけて、安全に勝利を狙うのが普通ですが、全部敵に回してでも自分の主張を貫こうとする。そういうリスクを取れる姿勢が、今の政治に必要なんです。

 そしてもう一つ、しがらみを断ち切る力が凄い。それができないと、大きなことはできない。民主党にしても自民党にしても、戦うべき相手は農協、医師会、電力会社などいろいろある。だけど、結局、怖くて戦えないのです」

 古賀氏がリスクを取らない政治家の代表として挙げた野田首相が、政権発足後の一年で推し進めてきたのは、消費税増税と原発の再稼働だった。

「野田首相は、『命懸けで消費税を実現する』と言いますが、命を懸ける相手を完全に間違えている。本当に命を懸ける覚悟があるのなら、官僚などの既得権益グループと戦えばいい。ところが、そっちは怖いから、一番弱くて、もの分かりのいい庶民を狙い撃ちにして、『命懸けで戦って消費税を増税する』などと言っている。消費税は財務省の言いなりだし、原発再稼動については経産省の言いなりです。結局、官僚のシナリオに従って命を懸けているだけなんです。野田首相には『本当に自分の命を官僚に預けていいんですか』と問いたいところです」

「情」を許さない人

 橋下氏は市長に就任以降、様々な改革案をぶち上げた。民間からの応募者を受け付ける「区長公募制」、赤字に苦しむ「市営地下鉄の民営化」、民間に比べて約2倍に近い高給(約700万円)をとる「市営バス運転手の給与削減」---など。昨年12月に24区で募集した区長への応募数は、この3月で想定を超える1460人を突破。「民間だけでなく市職員などからも応募があり、変化を求める人がいかに多いか分かった」(古賀氏)という。橋下氏が、既得権益に浸かる層を狙い撃ちにして好反応を得ているのが分かる。

 古賀氏が、橋下氏のもう一つの強みとして挙げるのは、「自分の言葉を持っていること」と、「論理的」なこと。これは、「感情論の人」という印象が強い世間評とは真逆の指摘である。

「官僚が言うことを、正しく正確に理解できる政治家は結構います。例えば与謝野馨さん、石原伸晃さんとか枝野幸男さんもそうです。ただ、橋下さんはそれを咀嚼した上で、それと違う自分の考え方をまとめて、自分の言葉で論理的に説明できる。それも非常に短時間でできる。ちょっと見たことがないタイプです」

 敵対する相手との論争を見る限り、「ケンカ論法」としか見えない橋下氏のどこが論理的なのか。古賀氏は、ある会議でのエピソードを明かす。

次期衆院選を睨み、ついに打倒民主党を宣言した橋下氏。この先、永田町はこの男によってぶち壊されるのか〔PHOTO〕鬼怒川 毅

「今年2月、大飯原発の再稼働について、大阪市が筆頭株主として関電に株主提案する案が出ました。その際、まず関電が定めた稼働条件の定款の改定を求めていくことにしました。普通、感情論だけの人なら『絶対に安全じゃなければ再稼働してはいけない』と主張して、それを株主提案にしていくはずです。しかし橋下さんは逆に冷静でした。橋下さんが注目したのは、原案にあった『絶対的な安全性確保』という文言でした。橋下さんはこの文言を見て、『安全に絶対なんてないはずだ。絶対的な安全性を求めるという表現は、論理的に破綻している』と、その曖昧さを指摘しました。そこで私たちは、市民の誰もが分かる言葉で、文言を言い換えることにしたのです」

 最終的に〈論理的に考え得る危険について万全の対策を実施する〉という文言への改定を求めることになったという。

 論理の人とはいうものの、橋下氏はツイッターなどで評論家など敵対する人物を個人攻撃することでも有名だ。例えば今年1月、テレビ番組で共演して討論した、同志社大学大学院の浜矩子教授に対して、放送終了後、ツイッターで〈あんたは何様なんだ?〉〈浜さん、あなたの紫色の髪の毛とその眉毛、そのために国民はあなたに税金を投入しているんじゃないんですよ!〉などと罵倒。別のテレビ討論では、山口二郎教授(北海道大学大学院)に対して「学者なんて何も知らない」などと面罵している。古賀氏は、こうした品性がないとしか言いようのない橋下氏の言葉をどう見るか。

「(苦笑しつつ)計算もあると思うんです。自分と正反対、真っ向から議論してくる人をわざと際立たせると、市民も関心を持つ。それで議論が深まっていくということはありますよね」

 古賀氏は逆に、橋下氏は「人の使い方が上手い」とも評する。

「外から見ると、『これをやれ。やらないとクビだぞ』というやり方を想像すると思います。しかし、実際は『これやってくれるんでしょ。ありがとうございます』という感じです。決して押しつけない。また、情に訴えるやり方を許してくれない人でもある。例えば、組合改革をぶち上げた時、橋下さんは、握手を求めてきた組合委員長の手を握りませんでした。あそこで握手をしたら、向こうが間違ったことをやっているのに、『まあ仲良くしましょう』ということになる。向こうが改めるというなら、その時に握手するかもしれませんが、先方はまだ戦う姿勢を見せている。だからそこは筋を通す。それが橋下流の人の使い方。逆に論理的に相手が正しいとなれば、自分の間違いを簡単に認めますよ」

 しかし、橋下氏の政治手法を見ていて、急激な変革が、大きなロスを生み出してしまっているようにも見える。市バス運転手の給料38%カットで職員側と大きな溝を作ったり、職員組合での運動経歴などをアンケートに実名で記入させ、職員の9割が加入している労組と真っ向対立したことは、本当の改革に繋がるのか。

「当たり前のことを言っているだけです。バスの運転手があんなに高い給料を貰うなんておかしいでしょ。大阪市の場合、組合が強固で凄い。組合の組織率が9割を超えているところなんて、普通じゃありえない。なぜかというと、組合に入っていないと昇進できないと、皆、思っているからです。だから結局、大阪市は組合の言いなりだった。それを改革しようというんですから、並大抵のことではできません。組合改革については、若手職員らは応援してくれています。〈組合を徹底的にやっつけてくれ〉〈組合があるから好きなことができない〉といった手紙やメールがいっぱい来るんです」

 古賀氏は、橋下氏をサポートしていくことで、将来的に日本の行政システムを変革することを目指している。最終的に橋下改革は、どこに行きつくのか。

「霞が関と永田町に任せていると、今までの発想から抜け出せません。今の日本は、いろいろな利害関係やしがらみで、何も変えられない膠着状態にある。それを地方から変えていく。住民の支持を支えにしながら出てくる発想や政策は、中央のものより遥かにレベルの高いものです。中央ではできない様々な改革が、地方でどんどん実現していく。それが中央へのプレッシャーになればいい」

 次の衆院選では、大阪維新の会が台風の目になるのは間違いない。

「さすがに維新の会が過半数を取るのは厳しい。となれば、みんなの党や、自民、民主から飛び出した真の改革派と組んで政権を取っていくことになると思います。私の夢は、政治家と官僚が、市民、国民のために働くという本来の行政に立ち戻らせることです。日本のためにも、橋下さんの大阪改革は必要なのです」

 民主党にケンカを売った橋下・大阪維新の会。これは改革の第何幕なのか。

「フライデー」2012年5月11・18日号より

こが・しげあき/経産省で経済産業政策課長など中枢ポストを歩むが、国家公務員制度に関する急進的な改革を提唱したことから霞が関で異端視され、'11年9月に退官。著書に『日本中枢の崩壊』(講談社)など
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