ドイツ
冷戦時代の手法が復活か!? ウクライナの民主化を支援したいのならサッカー観戦のボイコットは得策とは言えない
「オレンジ革命」で大活躍したウクライナの元首相ユリア・ティモシェンコ〔PHOTO〕gettyimages

 本日はまた、日本では報道されないドイツのトップニュースを1つ。

 6月8日より7月1日まで、サッカーのヨーロッパ選手権(EURO 2012)が開かれる。サッカーファンにとってはワールドカップよりも熱い(?)最大イベントの1つだ。今年の開催地はポーランドとウクライナ。そういえば、去年の4月にポーランドを訪れた時も、スタジアムをはじめ関係施設の建設が着々と進み、"槌音高く"といった高揚した雰囲気だった。ウクライナもおそらく同じだったと思う。

 ところが今、ウクライナのサッカー観戦をボイコットしようという動きが起こっている。

 原因は、ウクライナ元首相のユリア・ティモシェンコ。2004年の「オレンジ革命」のときに大活躍した、金髪の三つ編みをぐるりと頭に巻いた政治家と言えば、「ああ、あの人!」と読者の頭の中に女優並みの美人の顔が浮かぶと思う。

 その彼女が、職権乱用で7年の禁固刑という実刑判決を受けたのは去年の10月だが、現在、拘置所内で、病気にもかかわらず妥当な治療を受けられず、それどころか虐待されているという情報が伝わってきており、ドイツをはじめとする各国の政治家が敏感に反応したのである。

 まず、ドイツのガウク新大統領(3月に就任)がウクライナ訪問を急きょ中止し、以来、ドイツのみならず、ヨーロッパの多くの政治家がそれに同調。EUのバローゾ委員長もすでにサッカー観戦のボイコットを宣言したし、この調子では、ウクライナのスタジアムの貴賓席は、おそらく空席でスカスカになると思われる。

 ボイコットの理由は、1.人権が侵されている国でスポーツに歓声を上げるのはモラルに反する、2.人権蹂躙に目をつむって大会を成功させれば独裁政権を支援することになる、等々。

 しかし、それを言うなら、北京のオリンピックはどうだったか? 選挙も野党も言論の自由もない独裁政府を、ドイツは十分に支援したのではないか。ウクライナには少なくとも選挙と野党は存在する。ガウク大統領は、中国も訪問しないつもりだろうか?

 そうこうするうちに、「すべての試合をポーランドかドイツへ移せ」と言いだした政治家がいる。何年もかかって計画してきた大イベントを4週間で場所替え? 警備が追い付かず、テロリストも喜ぶことだろう。また、「試合を見に行くなら刑務所の政治犯も訪問すべきだ」と言った学者もいる。サポーターの団体はオレンジ色のスカーフを巻いて刑務所へ!? 学者は冗談がうまい。

 メルケル首相は、自分がウクライナに行くかどうかは、状況を見ながら最終的に判断するとして、決断を留保している。

国民はいないも同然

 ウクライナは日本人にはあまり馴染みのない国だ。ウクライナと聞いて思い浮かぶのは、チェルノブイリとコサック兵ぐらいか? 1922年にソビエト連邦に組み込まれたが、当時、ソ連は強硬な農業政策を敷き、1921年と32年、ウクライナを大飢饉に陥れた。ただ、2度目の飢饉は故意に誘発されたという見方が優勢。つまり、スターリンは邪魔なウクライナの農民を餓死させ、この肥沃な穀倉地帯をソ連の意のままに利用することを図ったらしい。

 40年代になると、新たにこの広大な土地を狙う人間が現れた。ヒトラーである。よってウクライナは独ソ戦の激戦地となり、結局、ドイツ人とソ連人の両方に蹂躙され、400万人が犠牲になった。戦後は再びソ連の支配下にはいったが、収穫は大幅に搾取され、引き続き念入りに弾圧された。独立を果たしたのはソ連が沈没したあとの1991年。当然のことながら、今でもウクライナ国民のロシアアレルギーは強い。

 ただ、独立後もウクライナの政治はうまくいかない。2004年に「オレンジ革命」、そして、その翌年、ダイオキシンで顔がデコボコになったユシチェンコと美人ティモシェンコが、それぞれ大統領と首相になった。当時、1度は当選していながら、「オレンジ革命」のせいでそれを覆され、大統領になりそこなったのが親露派のヤヌコーヴィチ。現大統領だ。

 さて、「オレンジ革命」でウクライナが民主化するかと思いきや、その後の混乱はすさまじかった。ユシチェンコとティモシェンコのコンビはあっという間に仲間割れ。そのユシチェンコ派が最高議会選で惨敗したら、すかさず親露派のヤヌコーヴィチが台頭。美人ティモシェンコは失脚するが、なぜか復活。権力闘争に次ぐ権力闘争。国民はいないも同然。

 しかし、お話はこれからだ。今、新大統領は親露派ヤヌコーヴィチで、彼にしてみれば、八つ裂きにしたいほど憎かったティモシェンコは刑務所で病に臥せっている。これが計略であってもちっとも不思議ではない。だから、ドイツをはじめ、ヨーロッパ諸国が抗議しているのだが、ただし、ティモシェンコ失脚であわや民主主義の危機などと思うのは気が早い。「ティモシェンコ=民主主義」などという単純な話では決してないのだ。

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