官々愕々
これぞ国宝級の悪知恵

 財務省が4月25日、衆議院の旧高輪宿舎(東京都港区)を100億円で東京都に売却すると発表した。財務省と言えば、事業仕分けで凍結されていた埼玉県の朝霞宿舎建設を、野田佳彦財務大臣(当時)を洗脳して再開させ、世論の袋叩きに遭った役所だ。消費税増税を推進する傍ら、トップの勝栄二郎事務次官が約2300万円もの年収があるのに、目黒区の高級住宅地の官舎に月額9万円未満という、相場に比べてタダ同然の家賃で住んでいることが発覚し、大騒ぎになったことも記憶に新しい。

 その財務省による高輪宿舎売却でようやく公務員宿舎の削減が始まったか、と思った人がいるかもしれないが、それは大間違いだ。

 そもそも、昨年12月に決まった公務員宿舎削減計画がとんでもない「官僚のレトリック」。近年にない傑作、国宝級とも言われている。25・5%の宿舎を廃止する「大幅削減」と政権は自画自賛したが、よく読むと、抜け穴だらけだ。

 まず、各省庁が独自に「緊急参集する必要がある職員」と認定すれば公務員宿舎に入っていいことになっている。これでは、今住んでいる管理職は間違いなくそのまま宿舎に入り続けることになる。国会・予算関連などの業務で「深夜・早朝における勤務を強いられる」職員も宿舎に入れるので、殆どの若手職員はこれに該当する。つまり、若手から幹部までみんな入れるのだ。幹部用宿舎は建設しないとも書いてあるが、幹部用としてではなく「緊急参集用」として建設が認められるだろう。

 また、今ある幹部用宿舎はすぐ廃止かと思ったら、「危機管理要員等」が入居するものを除くとなっており、結局居座りを認める。要するに、勝次官が住んでいる以上、潰す訳にはいかないということだ。

 さらに、「廃止」は使わないと決めるだけのことで「売却」とは別。今後、新たに廃止を決めるものについては'15年度から売却を始めると書いてはあるが、'16年3月31日に一つ売れば売却を始めたことになる。しかも売却はほとんど実行されないだろう。冒頭に紹介した高輪宿舎は'07年に閉鎖されてから今日まで温存されていた。「身を切る」ポーズをとるために5年も経ってから売却されるのである。

 財務省の本音は、「'16年まで時間があれば、国民は馬鹿だからこんな計画があったことは忘れるだろう。政権交代もあるだろうし、どの政権であれ政局に忙殺されるだろうから、とりあえずは何もしなくてよい。将来問題にされたら、その時にまた息のかかった学者を集めて有識者懇談会を作ってやり直させる。その間にいろいろと理屈をつけて新たな宿舎も建設しよう」というものだ。現に12月以来、宿舎削減は何も進んでいない。

 ちなみに、衆議院の赤坂議員宿舎の家賃値下げがマスコミを賑わしたが、実は、これは公務員宿舎に関するルールを準用しただけだ。公務員宿舎は、築年数が5年経てば家賃を2割前後、15年経つと何と4割近く値下げされる決まりになっている。今年も大幅値下げが実施された宿舎に住む幹部職員も多いだろう。しかし、誰もこれを批判しない。まさかそんなことをしているとは想像さえできないからだ。

 自分達の生活に関わることだと無尽蔵に知恵が出て来る高級官僚。その知恵は、国民のためにこそ使うべきだろう。

「週刊現代」2012年5月19日号より

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