馬淵澄夫レポート

「将来の年金不安があるから消費がのびない」は果たしてホントか? 消費増税論議には事実に基づいた検証と論点の絞り込みが行われるべき

2012年05月09日(水) 馬淵 澄夫
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 5月14日の週からはじまると言われている社会保障・税一体改革特別委員会での消費増税論議に向けて、筆者は、97年の消費増税検証を改めて丁寧に行うべきだ、と前回述べた。国会という国権の最高機関における議論においては、事実に基づいた一つ一つの事象の検証を正確に行い、問題の本質に迫る論点の絞り込みが行われるべきなのだ。

 その意味で、私は、党内議論でさんざん繰り返し増税の論拠とされてきた「社会保障の充実こそ消費の回復につながる」そして「将来不安が払しょくされれば消費が増える」、だから「社会保障の安定充実が必要である」ため「消費増税が必要だ」と説明されてきた、「将来不安」と「消費」の関係について論考しておきたい。

 与党内議論では、この「将来の年金不安があるから消費が伸びない」ということについては政府サイドからほとんど「de facto」のように語られてきたロジックでもあったが、果たしてホントにそうなのか。

1.将来不安と予備的貯蓄

 まず、「将来不安が払拭され、消費が増える」とはどういうことかを考えてみよう。

 これにはまず、「予備的貯蓄」という概念を用いることになる。予備的貯蓄という考え方は、将来の不安・不確実性(例えば、所得の減少)に備え、消費を抑制して貯蓄をするというものであり、1970年代より理論的な研究が進んだ分野である。80年代後半に入ると、欧米では、理論的な研究がさらに深まり、同時に実証的な分析が行われるようになった。日本においても1990年代以降、実証的な研究が行われるようになってきた。

 日本の実証的な結果について、まず、内閣府経済社会総合研究所がとりまとめた「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策」の研究の中に、「バブル期からデフレ期にかけての家計の予備的貯蓄行動の変化」(石井達也著、第1巻『マクロ経済と産業構造』第3章、2009年)がある。

 ここでは、予備的貯蓄について、バブルからデフレ期にかけての不確実性の指標(リスク指標)として消費動向調査で公表している「雇用環境」、「収入の増え方」、「資産価値の増え方」の3種の要因について実証分析を行っている。そして分析の結果、雇用リスクが予備的貯蓄の動機として有意に説明できるとし、所得リスクや資産価値変動リスクは説明力がないとしている。

 雇用リスクについては、90年代以降の非正規効用の増加などを反映した完全失業率が説明力を持つことから、景気循環的な要因よりも労働市場の構造変化の要因が貯蓄動機に大きな影響を与えたのではないかとしている。

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