磯田道史 第1回 「誰よりも古文書を愛し歴史をきわめた研究者が、誰よりも遊び込んだシマジに説いて聞かせる江戸時代の教育力と技術力」

店主前曰

 たいがいの大学教授は本を出してもほとんど売れないものだが、磯田道史著『武士の家計簿』(新潮新書)は発売すると同時に飛ぶように売れ、映画にもなったほどである。本書で磯田は加賀百万石の算盤係だった猪山家の貴重な家計簿を紐解いてみせた。『殿様の通信簿』(新潮文庫)では名君といわれた水戸黄門の漫遊はフィクションであったことを見破った。『江戸の備忘録』(朝日新聞出版)では岡山藩2代・池田綱政が色好みの殿様で子作り最高記録70人という事実があったことを教えてくれた。

 磯田道史は類い希な才能の持ち主である。われわれが現代文を読むように、江戸時代の古文書を何の抵抗もなくスラスラ読める稀有な才能を持っている。じっさい少年のころ、わたしは浮世絵の仮名文字をみたとき、へのこの文字しか読めなかった。江戸の庶民は仮名は読めた。漢字には総ルビがふってあった。仮名で書かれた三国志は江戸時代のベストセラーになった。

 磯田少年は中学生のころ、家にあった古文書に興味をもった。面白がる孫に祖父が親切に教えてくれた。高校になり、古文書辞典を古本屋で手に入れた。古文書の読解力がだんだん江戸時代の人並みになった。

 磯田道史は江戸時代に生まれたみたいに江戸時代に書かれた古文書を読むことが大好きになった。気がついたら、大学の歴史の先生になって古文書を読むことを職業にしていた。また、生まれて親につけられた名前の道史とは歴史の道をいう意味である。

磯田 はじめまして、磯田と申します。立木先生に写真を撮られるかと思って、昨夜、あまり眠れませんでした。

立木 可愛いこと言うね。磯田教授、大好きです。

磯田 わたしはまだ准教授です。