農業こそビジネスチャンスの宝庫だ
補助金バラマキ、農協依存を断ち切れ

 伊良湖岬で知られる渥美半島(愛知県田原市)を管轄する農協「JA愛知みなみ」が、実は売上高で日本最大の農協であることはあまり知られていない。温暖な気候を利用して、キャベツやメロンやトマトなどの栽培が盛んだ。そして一番有名な作物は、何と言っても「電照菊」。

 温室で電気を煌々と照らし、花の開花時期を調整する栽培方法で、教科書でも紹介されている。菊とキャベツの出荷量は全国一だ。東京、名古屋、大阪といった大消費地に近いことも、高付加価値農業を発展させた要因だ。

 実は、この一大農業地域の中にトヨタ自動車の田原工場がある。「レクサス」の輸出拠点となっており、「菊とレクサス」でこれまでは地域経済も潤ってきた。かつては「キャベツ御殿」と言われ、キャベツ相場で儲けた農家が豪邸を建てていた。この地域の農家の娘が嫁入りする際には、中部電力やトヨタなど優良株を財産として持たせたという。

 しかし、こうした豊かな農業地帯でも、農業を辞める人が増えている。高齢化で後継者がいないことが理由ではない。業績不振から農協への借金が支払えず、土地を売って借り入れを清算しているからだ。渥美半島の農業は、借り入れによって温室などに莫大な設備投資をし、パートを抱え、冬場は重油を使って菊を育てる。

 企業的な経営をしている農家が多く、売上高が1億円を超える農家も多い。その反面、原価償却の負担が常に重くのしかかり、日常コストも馬鹿にならない。菊もキャベツも相場は下がる一方なので、経営が成り立たなくなってきているというわけだ。

農家から貸し剥がしをする農協

 地元の農協は、農家を支援するどころか、債権回収室を新設し、農家から貸し剥がしにかかっている。地元農協には通称「折檻部屋」と呼ばれる、農家を呼びつけ、土地を売って借金を返せと迫る部屋がある。農業は天候や出来栄えにも左右されるので、短期的な視点だけでは経営は成り立たない。

 でも返済は待ったなしだ。中小企業の資金繰り支援などが政治の場で取り上げられることが多いが、農家の貸し剥しは大きな問題として取り上げられることはない。

 それには理由がある。農協を批判すれば、さらにいじめられるからだ。渥美半島ではまだ起きていないが、農協から資材を購入しないと、お金を貸さないといった手法を取っていた農協もある。このケースは、公正取引委員会から注意を受けた。公取も農協組織には独占禁止法の精神が理解されていないという見解を示している。

 この渥美半島で、日本最大の農協と戦ってきた岡本重明さんという農家がいる。

 その岡本さんが、今年1月20日、『農協との「30年戦争」』(文春新書)を出版し、その中で農協との戦いの経緯、自分の志などを語っている。実は、出版にあたり、筆者が企画・取材協力を行った。朝日新聞記者時代の17年前に岡本さんと知り合い、意気投合して以来、親交が続いているからだ。

 岡本さんの志は、一言で言うならば、「市場を意識した農業」である。コストを意識し、マーケティングを行い、お客が求めている商品やサービスを適時に適切な価格で供給しようという考えだ。当り前のことなのだが、農業の世界ではこうした考えをもつこと自体、「変人」扱いされてきた。

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