大手15社「出版デジタル機構」設立
半官半民の「産業革新機構」が150億円出資[電子書籍]

 電子書籍の普及に出版業界が本格的に乗り出した。アップルのiPadの登場やグーグルの電子図書館プロジェクトで急速に進むかと思われていたものの、電子書籍の日本での普及はいまひとつという状況だ。電子書店にアクセスしても品ぞろえは少ないし、値段も紙の本と変わらないからだ。

 一方、書籍などをネット通販しているアマゾンが、電子ブックのキンドルの新型機を日本でも発売することにしている。格安の販売価格で米国の電子書籍市場を切り開いてきたアマゾンが日本で本格的に展開すれば、出版事業の主導権をアマゾンに奪われかねない。

 また、「自炊」と呼ばれている本をスキャナーで読み、画像ファイルにした違法コピーが大量に出回っている。それによる被害も少なくしたい。

 そうした事情が重なり、日本の出版業界としても積極的に電子出版事業に取り組もうということになった。「出版デジタル機構」という会社が4月に設立され、「パブリッジ」と呼ばれるサービスを始める。

 出版デジタル機構には国内大手出版15社が出資し、約300社の出版社が賛同を表明したというが、最大の特徴は、半官半民の投資ファンド「産業革新機構」も150億円を出資して最大株主となっている点だ。書籍電子化のための公共の基盤を提供しようとする本気度がうかがえる。

 パブリッジが行うサービスは、自ら書籍の電子化を行うことが難しい出版社の代わりを務めようということだ。出版デジタル機構が出版社に代わって電子書店に電子書籍を提供して、その売り上げの中から、電子化に伴うコストを回収する。

 電子書籍については、すでに取次事業者が多数存在する。しかし、著作権を保護するためにダウンロードした端末だけでしか読めないようになっていることから、利便性が低いと感じているユーザーも多いようだ。

 過去に出版された本を電子化して出版する場合は、権利者が誰なのかわからないケースも多い。紙のページをスキャンして利用する場合、レイアウトは出版社の権利という見解もあるように、さまざまな権利が絡み合っており、これも普及を妨げる要因となっている。

 こうした複雑な権利関係の調整を進めるための仕組みも官民が協力する形でつくられている。ただ、出版する側にとっては、定価販売の再販が認められている紙の本と違い、電子書籍について公正取引委員会は再販を認めないという姿勢を示していることがやはり気がかりで、電子書籍に二の足を踏むことにつながったようだ。

アマゾン・キンドル上陸に対抗

 しかし、そうも言っていられなくなったというのが、先に触れたアマゾンの電子書籍サービスのキンドルを日本で実施しようという動きだ。

 アマゾンはキンドルの端末を超低価格で販売し、通信の費用もアマゾンが負担する。そして、紙の本より大幅に安い価格で電子書籍を提供し、米国などで市場を一気に拡大させた。

 実は日本でもアマゾンは他の電子書籍サービスを行なっている企業より、すでに優位な立場にある。多くの出版社は本の電子データをアマゾンに提供しているのだ。

 ネットで検索すると、検索した言葉に対応した書籍の情報が出てくることが多い。それをクリックすると、アマゾンの書籍販売のページにつながる。

 日本の出版社は、自社の書籍情報が多くの目に触れるようにするため、検索用としてアマゾンに本の電子データを提供している。そのため、電子書籍の販売の許諾を執筆者や出版社から得ることができれば、豊富な品ぞろえで電子書籍サービスを開始することができる。

 キンドルの日本版のサービスについて、アマゾンは年内に発表することを明らかにしている。そして、そのための交渉を出版社と行なっている。

 ただ、販売価格の決定権をアマゾン側が握ることや、著者や出版社との契約が切れた後もアマゾンが本の配信を続けられるといった契約内容に日本の出版社側が反発し、交渉は進んでいなかった。

 ところが、アマゾン側が譲歩したことから、アマゾンとキンドル日本版の契約で合意した出版社が出てきた。学研ホールディングス、主婦の友社、PHP研究所などの企業名が報じられており、合意した出版社は40社程度にのぼるという。

 電子書籍の主導権をアマゾンに握られかねないという危機感が、日本の出版界にとって現実味を帯びてきた。そこで、日本の出版業界も本格的に品ぞろえを増やそうという動きにつながったようだ。

 日本の電子書籍も、やはりアマゾンの動向を中心に動くことになりそうだ。

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