水源地を守る条例制定が相次ぐ
北海道、埼玉県で売買の事前届け出制[国土]

水源地の森林を守るために間伐が行われた(記事とは直接関係ありません)=山梨県道志村で11年6月4日

 水源地の森林などの外国資本による買収が表面化していた北海道がこのほど、目的不明の土地売買の抑制効果を狙った「水資源保全条例」を制定した。埼玉県も同じ趣旨の「水源地域保全条例」を整備。いずれも4月に施行し売買の事前届け出を義務付けているが、違反者に対しては氏名公表や適正化への「助言」や「勧告」にとどまり実効性に疑問が残る。根底には過疎化や林業衰退による森林の荒廃に対する政府の国土保全政策の不備という問題が横たわる。

 北海道では「中国や東南アジアなどの外国資本が森林を買収している」との情報が数年前から寄せられていた。水資源を狙っているのではないかとの懸念が広がっていた。

 日本では森林の売買を規制する法律はなく、11年4月に森林法が改正されるまでは、国土利用計画法で都市計画区域以外の1ヘクタール以上の売買について知事への届け出を義務づけているだけだった。林野庁と国土交通省がその情報をもとにした調査によると、06~10年間に外国人・法人による森林取得は全国で計40件、620ヘクタール。そのうち北海道が36件、604ヘクタールで97%と集中している。さらに北海道が11年5月時点でまとめた調査では、外資による買収は43件、924㌶に増えている。

 全国で初めて3月23日に北海道議会で可決した「北海道水資源保全条例」では、道内市町村からの提案を基に水資源保全地域を指定する。保全地域内での土地を売買する際は、売り主は▽売却先▽場所と面積▽土地の利用目的――などを契約の3カ月前までに知事に届けなければならない。

 違反者には勧告し、従わない場合は名前や法人名を公表する。大量取水など水資源への影響が懸念される場合は、知事が適正な土地利用を助言できるとした。4月1日に施行されたが、事前届け出は10月1日からとなる。

 売買契約の事前届け出を課すことで行政による監視を強めているが、違反者に罰則はない。市町村が水源保全のために土地を買い上げる場合に道が補助することも盛り込んだが、効果を疑問視する向きが多い。条例可決を受けて高橋はるみ知事は記者会見で「違反者は名前の公表にとどまり、実効性をいかに担保するかさまざまな苦労があった」と正直に吐露。「地方の条例では限界がある。国に水資源を守るためのルール作りを要請したい」と国による本格的な取り組みを求めた。

 また、埼玉県の「水源地域保全条例」も4月1日に施行された。同県内ではまだ外国資本による土地取得の事例は報告されていないが、全国的な動きを警戒し「今後取引される可能性がある」(県森づくり課)と〝予防線〟を張った格好だ。

 条例では荒川上流域の森林など県全域の約3分の1に当たる約11万5000㌶を水源地域に指定する方針だ。この地域内での土地の売買について、契約の30日前までに所有者が売却先などの契約内容を知事に届けなくてはならない。届け出がなかったり、内容に虚偽がある場合は、知事が適正な取引をするよう「助言・勧告」ができるとしている。事前届け制は10月1日から施行される。

 水源地の森林や地下水を保全する動きはすでに市町村レベルで活発になっていた。外国資本による森林買収問題では10年以降、全国で60以上の自治体が国に対して法整備を求める意見書を提出している。

 東京財団の吉原祥子研究員の調べでは、飲料水に直接影響がある地下水の保全では、10年9月の山梨県富士吉田市をはじめ、北海道ニセコ町(11年5月)、宮崎県小林市(同6月)、山形県尾花沢市(9月)、山梨県忍野村(10月)、鳥取県日南町(12月)などで新たに条例が成立した。長野県の安曇野市や、佐久地域と上伊那地域の自治体でも条例制定に向けて検討が始まっているという。

 ニセコ町の「地下水保全条例」は、大量の地下水の取水や水源地周辺の開発を規制するために事前許可制を導入した。具体的には地下水をくみ上げる際に、標準家庭で使う井戸水取水管より太い断面積8センチを超える管を使う場合に事前の許可が必要になる。水源地周辺の開発は、事業者に対して町との事前協議を義務付け、違反者には罰金50万円を科す罰則規定も設けた。

 日本の森林は、林業の壊滅的な衰退により価格が崩壊し買い手市場の状態が続いているという。そこに将来的に水ビジネスを狙う外国資本が目を付け、投機的な買収に走っているのではないかという懸念が広まっている。

 しかし日本はWТО(世界貿易機関)の協定で外国人や外国法人を理由に売買を規制することは基本的に認められない。根本的な問題は、所有者不明や放棄された森林が増加し過疎化や高齢化に伴い今後増え続けることとの指摘がある。外国資本による買収が表面化したことで、改めて日本の森林を取り巻く深刻な問題が浮き彫りになった。

国土の「死蔵化」のおそれ

 国も林業再生のためにも森林の所有者の移転など実態の把握が必要であることは認める。このため、昨年4月に森林の新たな所有者に届け出義務を課すことを盛り込んだ森林法を改正し、今年4月に施行された。日本政府としては、外国人を規制することが目的でないため事後の異動確認で十分との立場で、新たな土地所有者に対して市町村長への90日以内の届け出を義務付けた。

 さらに、森林の所有者が不明な場合でも意見聴取の機会を設けることを公示することで、木材搬出などのための路網を設置することを可能にした。間伐が必要な場合に、所有者が分からなくても行政の裁定で業者が代行できる制度も作った。また、自民党案との修正協議で、森林所有者に関する情報を行政部内で共有できることも盛り込んだ。

 森林に限らず土地所有者の不明化や匿名化は、貴重な資源である国土の「デッドストック化(死蔵化)」をもたらすおそれがある。全国で49%にとどまっている地籍調査の遅れは大災害時の復旧・復興の足かせになる。国土の保全と利用に関する抜本的な対策が求められている。

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