JAL再生は本物か?
営業利益は急回復 今年度内の再上場目指す

離陸する鶴丸マークのボーイング787機=ボーイング社提供

 2010年1月に経営破綻し再建中の日本航空(JAL)が、今年度内の再上場に向けて準備を加速している。11年3月期の連結決算の営業利益は1884億円で、更生計画の見通しだった641億円の3倍となり、12年3月期も同規模の営業利益を確保する見込みだ。果たしてJALの再生は本物なのか。破綻の遠因になったイベントリスクと言われる鳥インフルエンザの国際的蔓延や国際テロなどがこの10年間にたびたび起きているうえ、格安航空の台頭も著しく、航空業界の競争はいっそう厳しくなっている。JAL再生への視界は良好とばかりはいえない。

 JALは今年2月15日、「新中期経営計画」(12年度から5年間)を発表した。10年の経営破綻以来、初めて打ち出す成長戦略で役員らによる議論は40回を超えた。再生過程で確立した高収益体質を維持しながら、国際線の中長距離路線に集中投資して基盤強化を進める。この日に就任した植木義晴社長は「いかなるリスクにも耐えうる強固な会社を作り上げていく」と記者会見で決意を述べた。

 計画によると、5年間にグループ全体で4780億円の航空機投資を行い、破綻でストップしていた機材更新を本格的に再開する。燃費性能が高く戦略的機材と位置づけるボーイング787は発注数を従来計画より10機増やして計45機とし、16年度までに計33機を導入する。

 古くなった機材の退役も並行して進め、16年度のグループ全体の保有機は11年度比10機増の222機にとどめる。11年度に78%だった中小型機の比率を16年度には84%に高め、脱大型機路線を進める。

 新機材を集中投入するのは国際線で、成田―ボストン、成田―サンディエゴ、成田―ヘルシンキの欧米3路線を12~13年に新規開設するなど、16年度の国際線の旅客輸送能力は11年度比で25%増強する。一方、少子高齢化の進展に加えて、格安航空会社(LCC)参入やネットワークが広がる新幹線との競争激化が見込まれる国内線は、利便性を向上させるため小型機に切り替えて便数を増やすこともあり、輸送能力は逆に3%減とした。

新中期経営計画を発表する日本航空の経営陣=東京都内の日航本社で2月15日

 収益面では、不採算路線の撤退や機種、人件費削減など破綻後11年度までに達成した更生計画比1100億円のコスト削減に加え、16年度までに500億円を削減する。費用面では燃料費と為替水準を厳しく見積もったうえ、収入面でもイベントリスクによる需要減やLCCによる減収要素も織り込んだ。計画期間中は営業利益率10%以上(12年度予想11・3%)を維持し、自己資本比率は50%以上(同40・7%)に引き上げるなど財務体質の強化も図る。

 しかし、新中期経営計画の収支・財務計画の数値目標は、新規上場基準で求められる12、13両年度の2年分だけを示した。記者会見に同席した稲盛和夫名誉会長は「(災害などのイベント)リスクにさらされる業界だけに、5年先を見通すことは非常に難しいため」と説明。航空業界の厳しい現状が浮き彫りになった。

◆日航の新中期経営計画(12~16年度)の骨子
・5年間に4780億円の航空機投資
・16年度末の保有機、11年度比10機増の222機
・ボーイング787の発注10機増、合計45機
・16年度の中小型機比率を同6㌽増84%に
・16年度の国際線旅客輸送能力を同25%増、国内線は3%減
・5年間でコスト500億円を追加削減
・人員数は5年後も現在の3万2000人規模を維持
・5年連続で連結営業利益率10%以上
・16年度末の自己資本比率50%以上

イベントリスクに翻弄される

 世界の航空業界は、イベントリスクに翻弄され続けてきた。01年の米国同時多発テロ、03年のイラク戦争とSARS(新型肺炎)、05年の鳥インフルエンザ、08年の金融危機と新型インフルエンザの世界的な蔓延と続いた。そのたびにJALの収入は急減した。

 会社更生法を申請した09年の連結営業実績は、国際旅客収入が前年比38%減、国内旅客収入が12%減となった。09年4月に国土交通省が着陸料の減免、金融措置の要請などの「支援パッケージ」を発表。直後に航空局長が「経営改善計画」の策定を指示した。

 当時の前原誠司国交相がJALや金融機関などからヒアリングした結果、自主再建では不十分と判断し「再生タスクフォース」が調査に入った。タスクフォースは10月に「企業再生支援機構の活用が必要」とする報告書をまとめた。翌10年1月、JALは主要子会社2社とともに、東京地裁に会社更生法の適用を申請。2月に会長として、京セラ名誉会長の稲盛氏を迎えた。

 会社更生法申請に至った要因はいくつもある。高コスト体質もその一つで、大型機の大量保有や不採算路線の維持、硬直的な人件費などの要因があった。

 JALが初めてジャンボ機を導入したのは70年。羽田空港などの発着枠が少ない時代に一度に大量の人員を運ぶことができた。対米貿易黒字減らしの意味もあって、世界で最多の108機を購入した。93年度末には保有航空機の7割近い86機がジャンボだった。

 しかし、「ハイテクジャンボ」と呼ばれた主流機「747-400」の燃費は、最新鋭の中型機「787」より約5割も悪い。景気が低迷し燃料費が高騰する現状では、席が埋まらない大きな機体は、飛ばすたびに赤字を出した。経営判断として、計画的にジャンボを退役させるべきだったのだが、ジャンボ機を退役させると巨額の損失が出ることから、歴代の経営陣がその決断を先送りしてきたという背景もある。

 半官半民の国策会社として発足したJALは、赤字路線を担わされてきたという歴史もある。02年には日本エアシステム(JAS)と統合した。だが、「地方路線主体で赤字に苦しんだJASを国交省が日航に背負わせた結果」という見方は業界で根強く、日航は多くの不採算路線を抱えることになった。

 現在、国内の空港数は97。利益誘導を図る政治家や自治体が建設を進め、この10年間で8空港が開港しているが、その多くは赤字という現状だ。空港建設は国の空港整備特別会計などを通じて行われてきたが、空港特会の歳入は航空会社が支払う着陸料や航空機燃料税に依存しており、日航の支払額は年間約1700億円に上り、赤字を助長する要因ともなっていた。需要がはっきりしないのに、地元の自治体や政治家から就航を働きかけられ、JALも無理な就航に応じて赤字路線を増やしてきた。08年度以降に国内34路線の廃止を決めたが手遅れだった。

 会社更生法を申請した当日の会見で前原国交相は「国の責任は大きい」と、従来の航空行政も日航破綻の要因であることを認めた。日航に不採算路線への就航を促してきた政治家や自治体、空港建設への負担を求めてきた国交省、政と官の「圧力」に抵抗できなかったJALという構図がうかがえる。会社更生法の適用はこうしたウミを出し切ることにもなった。

 また硬直的な人件費も足かせだった。最大で8労働組合(現在6団体)が乱立し、手厚い企業年金は温存された。元役員は「内紛もあり、経営陣がかじ取りに失敗した」と話すが、危機意識の欠如は05年の相次ぐ運航トラブルの背景にもなった。

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