先細りが懸念される外国人介護福祉士
政府部内の思惑のずれ、失望する介護業界[経済連携]

広島県北広島町の特別養護老人ホーム「正寿園」で、インドネシア人のアナ・グストリアニさんが合格を知り、職員と喜びを分かち合った=3月28日

 経済連携協定(EPA)に基づく初の介護福祉士国家試験の合格者が3月28日に発表され、受験者95人中インドネシア人とフィリピン人計36人が合格した。だが、介護福祉士を目指して来日する人は急激に減っており、制度の先細りが懸念されている。外交・通商関係強化のため経済産業、外務両省主導で導入を迫られた厚生労働省は今なお消極姿勢を崩さず、思い切った対策を打てずにいるからだ。政府内の思惑のズレによって政策目的はあいまいとなり、慢性的な人材不足にあえぐ介護業界の当初の期待は失望に変わりつつある。

 「『あいうえお』から始めて3年間で合格するのは大変だった」。合格を手にした外国人でさえ、言葉や文化・制度の違いに苦労した、と口々に語る。

 EPA協定は特定の国や地域の間で税関の撤廃・削減や規制緩和を行い、人や物、サービスなど幅広い分野で経済関係を強化する国際的な取り決めだ。政府は成長政策に位置づけ、外務・経産両省を中心に推進しており、今年3月時点で13国・地域との間で発効している。

 インドネシアとは07年7月、フィリピンとは08年12月に発効し、両国から看護師と介護福祉士候補者の受け入れを決めた。政府はベトナムからも受け入れる方針を決めている。

 介護福祉士候補者として来日するには母国で高等教育機関を卒業し、「介護士」の認定などを受ける必要がある。来日前後にそれぞれ半年の日本語研修を受け、受け入れ先の施設で働きながら3年間、実務を経験する。滞在期間は4年なので受験の機会は原則1回だ。一方、看護師については滞在期間は3年と短いが、3回の受験が可能だ。いずれも滞在期間内に合格できなければ帰国しなければならない。帰国後に再受験のため短期滞在することもできるが、日本を離れて学習を続けるのは極めて難しい。

 注目された初の介護福祉士試験の合格率は37・9%(日本人を含め63・9%)と想定より高かった。だが、先行する看護師試験は1回目の09年の合格率は0%。10年は1・2%、11年4%と徐々に増え、今年は11・3%にまで上がった。

 それでも日本人を含む全体の合格率は90・1%とは大きな差がある。インドネシアからの第1陣として08年に来日した看護師候補者にとって4回目の今年が「最後のチャンス」だった。最終的に合格したのは来日した104人のうち24人だった。

 合格率低迷を受け、政府は昨年3月に、来日前の日本語研修が不十分だった08、09両年に来日した看護師・介護福祉士候補者に限り、一定以上の得点があれば滞在期間を1年延長できる特例措置を決定した。今回の介護福祉士試験では不合格者59人のうち47人が延長対象となる。しかし、「1年延長しても学習意欲を維持するのは難しい」(介護施設経営者)との指摘もある。看護師では昨年の試験で延長を認められた68人のうち6割は再挑戦せず帰国を選んでいる。

 門戸を閉ざすかのような状況に批判の声が上がり、厚労省も重い腰を上げる。来日前の日本語研修の拡充や両試験で難しい漢字へのふりがな、病名の英語併記などを実施。来年からは試験時間を延長することも決めている。介護福祉士試験に関しては、外国人に配慮した試験のあり方に関する検討会をスタートさせ、今年6月に新たな対策をまとめる方針だ。

受け入れ拡充に腰重い厚労省

 だが、厚労省の対応は批判を受けるたびに小出しにするばかり。受験のチャンスを増やしたり、言葉や文化の壁が影響しない試験問題作りなど大幅な見直しには否定的で、外国人を積極的には呼び込みたくないという姿勢が露骨に表れている。

 もっとも、厚労省にすれば医療の安全性の確保、介護サービス利用者や同僚との円滑なコミュニケーションは譲れないところだ。労働政策との整合性もある。政府は介護分野を国内での雇用の有力な受け皿と位置づけている。「人材不足は日本人で」との建前上、厚労省は外国人の受け入れを「人材不足への対応ではない」としている。単純労働者の受け入れ問題も絡み、候補者の受け入れ枠にも上限を定めている。

 こうした姿勢が端的に表れているのが介護報酬上の扱いだ。介護施設は入所者1人に対して職員3人を配置しなければならないが、外国人候補者は「職員」とはみなされない。受け入れコストは施設側が持つことになる。日本人なら未経験者でも1人とカウントされるだけに、外国人候補者の間でも不満は大きい。厚労省は4月から夜間の加算などでは外国人候補者を職員として数えられるよう方針を転換したが、施設基準については容認しない方針だ。

 厚労省側の対応が後手に回っているため、受け入れ施設数は09年の177施設から11年には4割以下の62施設へと減少した。受け入れ施設が少なければ送り出す側も人数を減らし、09年に両国から来日した介護福祉士候補者は計406人だったが、10年に159人、11年には119人と2年間で7割も減っている。

 高齢化は今後も急速に進み、厚労省の試算では、団塊の世代が75歳以上となる25年度には介護サービス利用者は641万人と、11年度の426万人の1・5倍に上る。25年度に必要な介護職員数は232万~244万人と見込まれ、現在の140万人から100万人程度増やさなければならない。

 だが、介護職員の賃金は他産業より低く、人材不足は解消の兆しが見えない。それでも厚労省は「日本人の雇用を守る」との建前論へのこだわりを捨てられずにいる。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら