新会長に損賠機構委員長の下河辺氏
企業再生のプロ、取締役の過半数を外部から[東京電力]

野田佳彦首相らとの会談を終え、報道陣の質問に答える下河辺和彦氏=首相官邸で4月19日

 政府は6月に実質国有化する予定の東京電力の新しい会長に、原子力損害賠償支援機構の下河辺和彦運営委員長(64)=弁護士=を充てることを決めた。野田佳彦首相が4月19日、首相官邸で下河辺氏に就任を要請し、同氏はこれを受諾した。勝俣恒久会長(72)ら現経営陣の大半は退任し、東電は取締役の過半数を外部人材とする委員会設置会社へ移行するが、東電の再生には課題が山積しており、企業再生の専門家、下河辺氏の力量が試されるとともに、政府の全面的なバックアップが必要となる。 

 下河辺氏は野田首相との会談後、記者団に「力の及ぶ限り、新生東電の第一歩を踏み出すために精いっぱいの努力をさせていただく。現場で苦労している各地の社員全員と力を合わせ、私が陣頭に立って仕事に取り組んでいきたい」と述べるとともに、西沢俊夫社長(60)については「社長も交代していただきたい。私と共に新生東電を引っ張っていくことのできる人を選任したい」と、内部昇格させる考えを示した。

 支援機構を通じた金融支援によって既に政府の管理下にある東電は、この新体制を総合特別事業計画に盛り込み、6月の定時株主総会で正式決定する。総合計画は、支援機構と東電との協議で既に大枠が決まっている。トップ人事が確定し次第、新会長の意向に沿った修正を加える予定だったが、下河辺氏は計画策定を主導してきただけに、修正は限定的なものとなりそうだ。枝野幸男経済産業相は大型連休明けにも計画を認定した後、6月の株主総会後に支援機構経由で1兆円規模の公的資本を注入し東電を実質国有化する。

 政府・民主党は当初、新会長には民間経営者を起用する意向だった。後任会長選びの中心だった仙谷由人政調会長代行は原発事故の直後から「東電が政局の本丸」と漏らし、55年体制の下、政官財のトライアングルで強い影響力を誇った電力業界の牙城を切り崩すことに「政権交代の果実」を見いだそうと奔走した。

財界大物が相次いで固辞

 真っ先に仙谷氏が出向いたのがトヨタ自動車の奥田碩相談役(79)のところ。経団連会長も務めた元「財界総理」は師と仰ぐ豊田章一郎元会長と相談のうえ、いったんは東電会長を引き受ける腹を固めたが、トヨタブランドに傷がつくことを懸念した現経営陣から待ったがかかった。その後、奥田氏は国際協力銀行の総裁に就任。就任記者会見で「一般大衆に商品を売る会社が(東電の)会長になるのは非常にまずい」と述べ、出身企業の商品が不買運動に見舞われることへの懸念を強調した。この奥田発言が新会長の人選を難しくさせたともいえる。

 その後、経産省から出向している原子力損害賠償支援機構の島田隆事務局長らの「チーム仙谷」は、昭和電工の大橋光夫元会長やNHK経営委員長を務めるJFEホールディングスの数土文夫前社長、伊藤忠商事元会長の丹羽宇一郎・駐中国大使らの〝ビッグネーム〟に「ポスト勝俣」への就任を打診したが、いずれからも色よい返事はもらえなかった。

 電気料金値上げや原発の再稼働など経営の根幹にかかわる問題の先行きが不透明で、原発事故の被害者に頭を下げる損な役回りであることに加え、「政権交代と同時にはしごを外されかねない」との不信感も強かったとみられる。

 このため政府部内で、一時は会長を空席とする案も検討されたが、総合特別事業計画の司令塔が不在のままでは、東電の資金繰りが行き詰まり、東電改革を契機にした電力システム改革も頓挫しかねないため、暫定的に1年をめどとした「つなぎ」として東電問題に精通している下河辺氏を会長に据えることにした。

 下河辺氏は札幌市出身で、京大卒業後の74年に弁護士登録。「穏やかで忍耐強い人柄」(日弁連幹部)で、00年には信販大手ライフの更生管財人を務めるなど利害関係が複雑な再生案件で実績を残した。05~07年には産業再生機構の社外取締役、07年には日本弁護士連合会副会長も務めた。

 原発事故後の昨年5月には、同じ弁護士出身の仙谷氏に請われ東電の財務実態を調査する「経営・財務調査委員会」委員長に就任、東電に徹底したリストラを迫ってきた。さらに同9月には東電福島第1原発事故の賠償を確実にするために設立された原子力損害賠償支援機構の運営委員長に就任。仙谷氏や枝野経産相らの意向に沿った形で、東電の総合特別事業計画づくりを主導してきた。 

 東電の財務問題には詳しい下河辺氏だが、実際の企業経営の経験はなく、連結従業員約5万人の巨大企業を的確にかじ取りできるかは未知数。総合特別事業計画がすんなり実行できるかも難しい面が多い。下河辺氏はかつて「機構と東電では立場が違い過ぎる。

 行司がまわしを締めるようなもの」と周囲に語っていたが、万策つきて〝監視役〟に回ってきた〝実行役〟の仕事の大変さを、政府は理解し支援の手をゆるめてはならない。

 総合特別事業計画では東電はこの夏家庭向け電気料金を10%程度値上げし、15年度以降段階的に再び引き下げることになっているが、この料金設定は新潟県柏崎刈羽原発の再稼働を前提にして策定されている。再稼働が実現しないと火力発電の燃料コストが膨らみ収益が圧迫されることになる。しかし、原発の再稼働に慎重な新潟県の泉田裕彦知事を説得できる保証はない。

 また、最初の1年間で社内を「火力発電・燃料調達」「送配電」「小売り」「コーポレート」の四つに分ける社内分社制度も導入しなくてはならない。「発送電分離」を見据えた分社化に、東電内部からの抵抗は強いとみられ、これを軌道に乗せるのは相当な困難が付きまといそう。

 さらに、兆円単位とみられる除染や廃炉費用も未確定で、計画に掲げられた14年3月期での黒字化も希望的観測に過ぎない。東電内部では先行きを悲観する若手を中心に人材が流出する事態が起き始めている。モラルが低下する中で電力を安定供給する使命をどう果たしていくのか、下河辺氏に課せられた課題は果てしなく大きいといえそうだ。

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